朝日中高生新聞
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イエメンにサウジなどが軍事介入

2015年4月12日付

 アラビア半島南端の国イエメンの首都サヌアなどを占拠する反政府組織に対し、隣国サウジアラビアなど10カ国が3月に軍事介入に踏み切った。南部アデンなどで激しい戦いが続く。対立の背景にはイスラム教の宗派対立があり、国が分裂する恐れも高まっている。

背景にあるイスラム教の宗派対立とは?

シーア派集団、スンニ派政府に不満

 「フーシ」と呼ばれる反政府組織が、サヌアの主要政府庁舎を占拠したのは昨年9月。今年1月にはハディざんてい大統領を自宅なんきんに追い込み、2月には一方的に政府の樹立を宣言した。その後も支配地域を広げている。
 この組織は、もともと国内で少数派のイスラム教シーア派に属する部族集団だ。2011年に中東全体に広がった民主化運動「アラブの春」の後、イエメンでは、多数を占めるイスラム教スンニ派のハディ氏らを中心に、新たな政治体制を決める手続きの途中だった。フーシは政権に不満を持つ層を取り込み、活動を活発化させてきた。
 この動きに警戒感を強めたのが、スンニ派の大国サウジだ。サウジはシーア派の大国イランが「フーシを支援して地域を混乱させている」と指摘し、軍事介入を決めた。サウジにもシーア派住民がおり、見過ごせば国内で反政府運動が高まりかねないからだ。
 軍事介入は3月26日に始まった。サウジなどスンニ派の9カ国がフーシの拠点を空爆。さらに、地上部隊の投入を求める声も強まっている。米国や多数のアラブ諸国がこの作戦を支持する一方、イランはフーシへの軍事支援を否定し、「介入はイエメンの主権に対する侵害だ」と反発している。

混乱の影響は?

市民生活直撃 過激派が活発に

 サヌアを逃れて南部アデンで業務を続けていたハディ氏ら政権幹部は、3月下旬からサウジに避難している。帰国のめどはたっておらず、イエメンには国際社会が認める政府が存在しない状態だ。国連によると、空爆開始からの2週間で600人以上が死亡。アデンでは電気や水の供給も止まり、市民への被害が広がっている。
 この混乱に乗じて動きを活発化させたのが、アルカイダ系などのイスラム過激派組織だ。2日にはもともとイエメンを拠点にする「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が刑務所を襲撃し、この組織の幹部など300人以上がだつごくした。さらに、南部にある軍事施設を占拠したとも報じられている。
 日本政府は2月に大使館を閉鎖し、職員は国外に撤退した。イエメンの混乱が続けばアラビア半島とアフリカ大陸をへだてるバブルマンデブ海峡の航行にしょうが出る恐れがあり、日本から欧州への工業製品の輸出などがとどこおる可能性もある。

【イエメン】人口は約2400万人。主な宗教はイスラム教で、北部はシーア派系、南部はスンニ派系が多い。北部は1918年にオスマン・トルコから、南部は67年に英国から独立。部族間の対立に加え、北部が親米、南部が親ソ連の路線を取ったために対立が続いた。90年に統合したが、94年には南北間で内戦も起きた。

フーシへの空爆参加国の地図
(C)朝日新聞社

 

渡辺淳基朝日新聞ドバイ支局長の写真
解説者
わたなべじゅん
朝日新聞ドバイ支局長

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