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2016年4月3日付
米国のIT企業グーグルの系列会社が開発した囲碁の人工知能が、世界最強の一人といわれるプロ棋士を破って全世界に衝撃を与えた。進化を続けるコンピューターの技術はついに、ゲーム界の「最後の砦」といわれる囲碁でも人間を超えるほどの能力を示した。
今年3月、韓国の李世ドル九段(33)に、英国のグーグル・ディープマインド社が開発した「アルファ碁」が挑み、5回対戦して4勝1敗と勝ち越した。チェスや将棋など、よく知られているゲームの中で囲碁はコンピューターが人間に勝てない唯一のゲームだった。プロ棋士に勝つにはあと10年はかかるといわれていた予測が覆された。
コンピューターが勝てなかった理由の一つは、囲碁の盤上の変化の数が桁違いに多いからだ。チェスは8×8マス(計64マス)、将棋は9×9マス(計81マス)の盤上で相手のキングや王将を狙う。1手目からの変化は、チェスが10の120乗、将棋が10の220乗通り。囲碁は縦横19本ずつの線の交点(計361カ所)に黒と白の碁石を打って陣地の広さを争うが、その変化は10の360乗通りにも及び、盤上を「宇宙」に例えることすらある。
アルファ碁は「ディープラーニング(深層学習)」という手法を使い、まるで人間のような「自分で学習する力」を持つことで壁を打ち破った。過去に人間の打った10万もの棋譜(対局の記録)から学び、自分同士の対局を3千万回も繰り返した。
そうやって「盤上に碁石がどう並んでいるのがいい形か」といった特徴に自ら気づくようになった。この画期的な方法で実力を一気に引き上げた。
今回の人工知能の勝利は何をもたらすのか。
開発の最終的な目標は、社会の中で人間の手助けとなるような人工知能の開発をすることにあるという。スマートフォンに向かって話しかけると声の意味を理解して質問に答える機能など、人工知能はすでに私たちの身近なところにある。最も理解が難しいといわれたゲームで人間を破った学習方法が、自動車運転や医療事務などの様々な場所で生かされるかもしれない。
さらに注目したいのは囲碁界の動向だ。プロ棋士たちはアルファ碁の強さに驚くだけでなく、人間とは違う感覚の手を見て「囲碁の奥深さを改めて知った」などと感じた。4千年ともいわれる囲碁の歴史にアルファ碁は新風を吹き込んだ。今後、プロ棋士が固定観念にとらわれず、もっと自由な発想で打つようになれば、囲碁界は新時代を迎えるだろう。
アルファ碁の出現で囲碁が脚光を浴びる中、プロ団体の日本棋院は「これをきっかけに、もっと囲碁のことを知ってもらいたい」と、ファン拡大へのチャンスと受け止めている。
囲碁の人工知能「アルファ碁」と対戦する韓国の李世ドル九段=3月13日、韓国・ソウルグーグル・ディープマインド社提供
(C)朝日新聞社
解説者
伊藤衆生
朝日新聞文化くらし報道部
記事の一部は朝日新聞社の提供です。