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2016年7月10日付
「ふるさと納税」が人気だ。個人が好きな自治体に寄付すると、その分支払う税金が少なくなる上、お礼の品まで受け取れる制度で、利用が急増している。豪華な返礼品がもらえる個人、寄付が集まる自治体には好都合だが、様々な問題点も指摘されている。
ふるさと納税は第1次安倍晋三政権で当時の菅義偉総務大臣が打ち出し、2008年度から始まった。人口が減って十分な税金を集められない地方の町への「恩返し」が当初のねらいだった。菅氏は第2次安倍政権の官房長官として、15年度からは減税対象の寄付額を約2倍に引き上げたり、手続きも簡素化して利用しやすくしたりした。
2千円を超える分の寄付額は、国に納める所得税や住んでいる県や市に納める住民税から、その分が減税される。多くの自治体は特産物など返礼品を贈っているため、事実上、2千円で豪華な返礼品がもらえるのが人気を集めた理由だ。
15年度に全国の自治体が受け取ったふるさと納税の寄付額は1653億円に上り、13年度の11倍、14年度の4倍を超えた。寄付が多く集まったのは高級食材や家電の返礼品が注目を集めた町だ。首位は高級和牛や焼酎が売りの宮崎県都城市。2位は魚やiPadが話題を呼んだ静岡県焼津市。5位の岡山県備前市や8位の長野県伊那市も家電が人気を集めた。
問題になっているのは寄付額に応じて返礼品が豪華になり、お金持ちほど2千円で多くの「もうけ」を得られることだ。例えば、独身の人で給与年収が700万円の場合、寄付の上限は約10万8千円だが、給与年収が1億円の場合、上限は約430万円となり、数百万円分の品物を受け取ることができる。
実際、金券を贈った自治体には税の負担を軽くする「節税」目的の寄付が集まった。金券を贈り始めた千葉県大多喜町は15年度、寄付額が前年度の40倍近くに増え、全国12位に。批判を受け、町は今年度に入って金券を中止した。国も返礼品に金券や家電を贈らないように求めているが、続ける自治体もある。
寄付が一部自治体に偏っているのも懸案の一つだ。全1788自治体のうち上位1%の20自治体に全体の寄付額の27%が集中した。また、ふるさと納税をする高所得者が多い都市部では税収が減っている。
本来、納税額が多いお金持ちが、行政サービスを受ける上で優遇されることはない。誰でも行政サービスを公平に受けられるようにするのが民主主義社会の根っこにある考えだからだ。お金持ちほど得をするふるさと納税は、こうした考えと相いれない面がある。
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
青山直篤
朝日新聞経済部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。