田岡俊次記者(朝日新聞アエラ・スタッフライター)
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が核兵器をつくろうとしていたことをアメリカ(米国)との会談でみとめたんだって。日本にとどくミサイルもあるそうだから、こわいわ。
海岸で袋をかぶせ、人をつれて行くような国が原爆を持てば大変だ。
一発で何万人、何十万人も死ぬんでしょ。
あわてない。これから、くわしく説明するよ。
つくるの難しく、「ない」という見方が強い
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核兵器の開発をみとめた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)。日本政府は29日からの北朝鮮との話し合いで開発の中止をもとめます。右上は金正日総書記、左は小泉首相=写真合成 |
ジャン アメリカが「核兵器をつくっているだろう」と証拠をつきつけたらみとめたというけど、どんな証拠なの。
―北朝鮮から脱出した研究者の話をもとにアメリカが調べたら、1998年に核実験をしたパキスタンが北朝鮮にウラニウムを濃縮する機械の部品を輸出したときの書類が手に入ったようだ。
ケン 濃縮って?
―天然のウラニウムという金属の中には爆発しない「ウラン238」が99パーセント以上、原爆に使える「ウラン235」が0.7パーセントふくまれている。この純度を90パーセント以上に高めないと原爆には使えない。
そのためには、ウラニウムを硝酸でとかしてガス状にし、遠心分離器に入れ高速で回転させる。ウラン238をふくむ少し重いガスは外側による。真ん中にウラン235の軽いガスがのこるから、それをすい上げ、次の遠心分離器に入れる方法で純度を高めるんだ。
ポン 大変そう。そのやり方で北朝鮮は原爆をつくったの。
―いや、まだできていないと思う。北朝鮮にはウラン鉱山はあるが、純度を90パーセント以上にするには、柱状の遠心分離器を何千本もならべて、次々に純度を上げる必要がある。パキスタンにあるウラン濃縮工場は3千本の分離器を回転させ、年に原爆2、3発分のウラン235を生産した。
97年に北朝鮮へ輸出した物体の箱は長さ5メートル、幅3メートルほどだという。これでは濃縮の研究、実験ができるぐらいだろう。
ジャン アメリカは北朝鮮が原爆を持ってる、っていってるんじゃないの。
―それは、今度わかった核開発とはべつの話だ。北朝鮮は20年ほど前にロシア製の小型原子炉を輸入し、それで最大、原爆1、2発分のプルトニウム239をつくれたはず、という計算がある。
この原子炉は94年のアメリカとの約束で閉鎖し、かわりにアメリカ、日本、韓国などが北朝鮮に原爆に使える純度の高いプルトニウムを取り出しにくい新型の原子力発電所を建設することになったんだ。2003年完成の約束だったが、ひどくおくれ、完成は早くて2008年といわれてる。
原子炉の閉鎖前に1、2発分のプルトニウムをつくれたと推定し、それで原爆をつくったのでは、との説は前からある。
ポン ヘぇー。
―だけど「プルトニウムがある」ということと「原爆がある」ということは相当ちがう。「セメント100トンがある」というのと「ビルを建てた」というのはべつの話、というようなものだ。
プルトニウムを爆発させるにはソフトボール大の球状にし、まわりを爆薬でつつみ、全方向から同時に点火して、とけたプルトニウムを圧縮する「爆縮」という技術が使われる。これがうまくいくかどうかは核実験をしてみないとわからないはずだけれど、北朝鮮は一度も核実験をしていない。
ミサイルにつむ核弾頭は直径1メートル以下、重さ1トン程度に小型化する必要もある。その技術もむずかしい。
ケン じゃあ、なぜアメリカは北朝鮮が原爆を持っている、と発表したの。
―アメリカでも「北朝鮮は原爆をつくったはず」「いやプルトニウムを持つだけ」との論議がつづいているが、「ミサイルの弾頭はない」という見方が有力だ。
「持っている」と発表したラムズフェルド国防長官はミサイルを宇宙で撃ち落とすためのミサイルの開発に昔から熱心で、そのために北朝鮮のミサイルのこわさを機会があるたび宣伝してきた。
ジャン 日本は北朝鮮との話し合いで原爆をつくらせないようにできるの。
―北朝鮮が核開発を素直にみとめたのは、交渉の取引材料にするためだろう。小泉首相に北朝鮮は「核問題でこれまでの合意を守る」と約束しているから、日本は「その約束を守らないなら経済協力もできませんよ」とせまり、国際機関の調査をうけさせるようにすべきだ。その可能性はあると思うよ。
(02年10月28日)
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