社会編;星野 哲記者(朝日新聞電子電波メディア局ニュースデスク)
こんにちは。きょうはぼくの方からきみたちに聞いてもらいたいことがあって来たよ。
へー、なあに?
ぼくらの仕事、新聞に深い関係があること。いま国会で話し合われている「メディア規制三法案」といわれる法律案のことだ。
そういえば最近、よく新聞でそのことばを見るなあ。そんなに大事な話なの?
そうなんだ。だから、ちょっとむずかしいけれど、しっかり聞いてほしいのさ。
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テレビのニュースキャスターたちも、メディア規制3法案に反対の声をあげています=東京都千代田区の参議院議員会館で
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ジャン 3法案って、3つの法案があるということでしょ。それを、なんでひとつのものみたいによぶのかしら。
―別々の法案で目的はちがうけれど、結果的に新聞やテレビなど、メディアの取材・報道を規制(ルールをつくって制限すること)する内容だからだ。3つの法案は「個人情報保護法案」「人権擁護法案」「青少年有害社会環境対策基本法案」というよ。
ケン 目的がちがうって、それぞれどんな内容なの?
―まず個人情報保護法案は、名前や生年月日など個人の情報を守ろうというもの。きみたちにも知らない会社から手紙やはがきが来ることがあるでしょう。自分が知らないところで住所や名前などが使われるのは変だから、禁止しようというわけだ。
ジャン あら、いいじゃない。そういう手紙とかって、わたしも気持ちが悪い。
―そうだね。でも、取材・報道の立場からはよろこべない。たとえば、政治家が悪いことをして何かをかくしているとしたら、その政治家がどんな人かを調べる。でも、その人が「個人情報を勝手に調べるな、使うな」と法律を使って取材のじゃまをするかもしれない。
ポン 悪いことをかくせちゃう!
―そう。ほかの法案も、差別や虐待で人権がおかされる(人権侵害)のを解決したり、暴力的な映像など害のある情報から子どもたちを守ったりという一見、いい目的をかかげている。だけど、報道も人権侵害のひとつだとして、国の機関が「取材をやめろ」と命令を出せるようになってしまう。つまり、法律ができると、国が取材・報道の内容に割りこめるようになる。
ヨーロッパの国々には同じような法律があるけど、報道は法律にしばられないとしているんだ。
ジャン 国が割りこむことがどうして問題なの?
―メディアの大きな役割は、国や政治家が悪いことをしないか見張ることなんだけど、メディアの活動が制限されたら、それができなくなる。それにメディアは、ひとりひとりが自分の考えや知ったことを自由にあらわす「言論の自由」を守る上で大きな役割をはたしている。「国の考えに合わない報道はだめ」ということになれば、言論の自由もうしなわれる。
ケン 自由に自分の意見がいえない社会って、想像つかないなあ。
―じつは日本にもそんな時代があったんだ。日本は60年ほど前、アジアの国々やアメリカなどと戦争をして多くの人を殺し、たくさんの日本人も死んだ。戦争の前や戦争中、報道は国に規制されて自由をうしない、国のいうがままに「戦争のためにがんばろう」と宣伝する道具になってしまったんだ。
ジャン でも、それだけ問題があるのなら、みんなが法案に反対するんじゃないの。
―ところが、みんなが反対というわけでもないんだ。こうした法案が出てきた責任はメディアにもある。犯罪の被害者やその家族のめいわくを考えないで取材したり、おもしろければそれでいいというような報道をしたりするメディアもあるんだ。それで「メディアは自分たちの敵。規制した方がいい」と感じる人たちが出てきてしまった。
ポン そうなの?
―いまメディア側は自分たちの悪い点をなくそうと取材の仕方などを工夫し、問題が起きたときのための解決機関をつくるなど努力している。国から規制を受ける前に自分たちで悪いところはあらためないとね。
(2002年5月11日)
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