安藤 嘉浩記者(朝日新聞スポーツ部)
ヤンキースの松井秀喜選手は一年目からかなりの活躍だったね。
大リーグ一を決めるワールドシリーズで、最後の2試合は4番を打ったものね。
でも、ホームラン(本塁打)は日本にいたときほどは打てなかったけど……。
松井選手本人も満足していないだろう。でも、1年目としては合格点だったと思うな。
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1年目でヤンキースに欠かせない選手になった「ゴジラ」松井選手=大友良行さんうつす |
信頼勝ちとり全試合出場 「合格」
ケン すごく覚えているのはヤンキースタジアム最初の試合で打った満塁ホームラン。ファンの大歓声にヘルメットをとってお礼する姿がカッコよかった。
――4月8日のメジャー一号はたしかにドラマチックだった。打席に入るとき、地元ニューヨークのファンは立ち上がって、ものすごい声援を送った。ふつうはプレッシャーになるものだけど、「打つことに集中したから気にならなかった」といっていたよ。
ポン さすが! どうしたら、そんなふうにできるの?
――いまの状況や相手投手のデータなどを頭の中で整理すれば、集中できるらしい。「打てなかったら」なんて考えるとだめなんだね。
ジャン でも、そのうち全然打てなくなったよね。「ゴロ・キング」なんてよばれてた。
――松井選手は決して天才じゃない。マリナーズのイチロー選手は日本でもプロ入り3年目にいきなり210安打を打ち、大リーグでも1年目から首位打者をとったから、天才肌といえるだろう。
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「一年目に期待した内容と結果をくらべると、こんな感じです」と、採点した安藤記者
*ポストシーズンは、リーグ優勝をあらそうプレーオフとワールドシリーズ イラスト・ながたのぶやす |
松井選手はじっくり型なんだ。日本でのプロ1年目、ホームランは11本。イチロー選手が注目されたのと同じ3年目でも、22本だった。50本の大台にとどいたのは10年目の去年だった。
ポン イチロー選手はウサギで、松井選手はカメ?
――うまいいい方だね。新しい国、しかも日本よりレベルが高いところへ行っていきなり活躍するのは本当にむずかしい。活躍しだせば相手も打たれない方法を研究してくる。
ケン 外角攻め?
――そう。ストライクゾーンの外側、打者から遠い方を外角という。そこが松井選手の弱点と考えたんだ。もともと大リーグは、日本よりストライクの範囲が外側に広い。とまどいもあっただろう。
ジャン 大変だったんだね。
――立ち直るきっかけをつかんだのは6月5日。打順を7番まで下げられた試合で、26試合119打席ぶりにホームランを打った。つづいて2塁打も3本。実は試合前、トーリ監督に「少しベースに近づいて立ったらどうだ」とアドバイスされた。遠い外角も近くなるからね。ガンコな松井選手も、このときは素直に聞き入れた。
ポン 来年はホームランもふえる?
――絶対にふえると思う。松井選手はチームでただひとり全163試合に出場した。体がじょうぶなだけではできない記録だ。ホームランは出なくてもチャンスでしっかりヒットを打つ。走ることや守ることでもチームに貢献したから、いつも出場させてもらえた。トーリ監督は何度も「ヒデキはヤンキースに欠かせない選手」といっている。
ケン すごいな。
――それは松井選手の作戦でもあったと思う。1年目からホームランをたくさん打つのはむずかしい。それならほかのことでみとめてもらう。時間をかけ、ホームランを打てるように自分を成長させていく。試合に出してもらいながらじっくり回り道する方法をえらんだんだ。
ジャン 来年が楽しみね。ところで、英語はどうなの?
――こちらも、じっくり成長しているようだ。松井選手は学校の成績もよかった。何事もちゃんと努力する人なんだ。だから、多くの仲間やファンから愛されるんじゃないかな。
(03年10月31日)
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