星野 哲記者(朝日新聞電子電波メディア本部ニュースデスク)
あら、何をもめてるの。
ポンがぼくのケーキを勝手に食べちゃったんだ!
何いってるの。あれは、わたしのケーキでしょ。
まったく、うちも裁判員制度をとり入れて、裁判をしたいところだわ。
サイバンイン……?
いま政府が、国民に法律や裁判に関心を持ってもらう方法を話し合っている。その目玉となるのが裁判員制度だよ。くわしく説明しよう。
ケン ねえ、その裁判員って何さ。
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裁判員制度を知ってもらおうと開かれた模擬裁判のようす(上の写真)。裁判員が裁判官といっしょに判決を出します。下の写真は、裁判官が判決を出すいまの法廷のようす。奥の壇上にならんだ3人が裁判官です |
―ぎゃくに質問だ。裁判ってどういうものか知ってるかい?
ジャン 人を傷つけたり、物を盗んだりした人をどれぐらい刑務所に入れるか決めるのでしょ。
―それは逮捕された人が本当に罪を犯したか、犯したとしたらどれぐらいの罪か、証拠をもとに判決を出す刑事裁判だね。あと、お金を貸したのに返してくれないからなんとかしてほしいなど、市民が自分で裁判所にうったえる民事裁判というのもある。こっちは警察がかかわらないんだ。
ポン ふーん。
―裁判員というのは、事件など警察が関係した刑事裁判に市民も参加してもらい、判決を出そうという制度だよ。政府は数年後に始めたいと考えて、この案を出しているんだ。
ケン いまは市民は参加していないということ?
―そう。裁判官という、法律の専門家が判決を出している。専門家にまかせていることで、いくつかの問題点が指摘されているんだ。
ポン どんな?
―判決文がむずかしくなり、ときには、多くの人が「なぜ、そうなの?」と首をひねるような判決が出される。手つづきに時間がかかり、裁判が10年以上つづくケースもあるんだ。判決が社会の常識とかけはなれないようにし、裁判のスピードアップもはかろうというのが裁判員制度をとり入れる目的だ。
ジャン なぜ裁判員制度だと裁判の期間が短くなるの。
―裁判員はそれぞれ、会社につとめたり家事をしたりしている。裁判の間は、そうした仕事を休んで裁判所に来なくちゃいけない。裁判員にえらばれた人が仕事を休みやすいように制度をととのえるというけど、それでも長い期間、休むのは無理だ。だから短い期間で集中して話し合うようになると考えられているのさ。
【裁判官は】
裁判所の一員として、罪に問われた人が有罪か無罪かなどを法律にもとづいて判定する国家公務員。判事や判事補など6種類に分かれ、去年4月現在で計3094人が働いています。
裁判官はまず、法律の専門家になるための試験(司法試験)に合格し、研修を終えた人が内閣から判事補に任命されます。判事補を10年以上つとめると、判事に昇進する資格ができます。判事には弁護士や検察官、大学の法律の先生として10年以上働いた人も任命される資格がありますが、判事補以外の人が任命されるケースは少ないといいます。
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ポン パパやママも裁判員になれるの?
―うん。裁判員制度の話し合いの参考にと政府がまとめた案では、裁判員は選挙権がある人の中からくじでえらぶ。えらばれたら「市民の義務」としてかならず引き受けなければいけないとし、罰則もつくろうとしている。
ジャン でも、判決を出すってすごく責任が重いじゃないの。法律がわからない人でもだいじょうぶなのかしら。
―裁判員制度は、アメリカで行われている「陪審員制度」とはちがう。アメリカの制度は裁判官がくわわらずに、市民だけで話し合って判決を出すけれど、裁判員制度の案では市民が裁判官と話し合って判決を出す。だから、法律を知らない人でも、専門家の知識やアドバイスをもとに考えて判決が出せるわけだ。
ケン いい制度なら、すぐに始めればいいのに。
―まだ考えなくてはいけない点がいくつかあるんだ。まず、裁判員を裁判に何人参加させるか。裁判員が少ないと、専門知識を持つ裁判官の判断にかたむきやすいのではないかといわれている。
それと、裁判の時間を短くするうえで問題なのは、警察がどんな捜査をしたのか、どんなふうに証拠を集めたのか、という捜査の手つづきを、裁判員にわかりやすくしめせるかどうかなんだ。
ジャン どういうこと?
―警察の捜査はわかりにくい。たとえば、容疑者を暴力でおどしてむりやり自白させた証拠ではないか、などのうたがいが出てきたら、裁判は短い期間では終わらない。
ポン ふーん。
―裁判は人の一生にかかわるとても大事なものだから、じっくり話し合って、みんながなっとくできる制度にする必要があるよ。
(03年4月5日)
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