伊藤 厚史記者(朝日新聞政治部)
パパが「有事についての法案がとうとう、まとまりそうだ」って話してたよ。
ママは「日本が戦争に巻きこまれないのかしら」と顔をしかめてた。
国会で法律ができるらしいけど、そもそも「有事」ってどんな意味? 字を見ると無事の反対のような気がするけど……。
ジャンがいったことは、半分当たっているね。有事というのは、日本がほかの国から攻撃されること。つまり戦争という意味なんだ。
戦争! たいへんだあ、くわしくおしえて。
ジャン 戦争の法律? 有事法制ってどんな法律なの?
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いまの国会で成立する見通しの有事法制関連3法案。国民を守る「国民保護法制」については、これから話し合われます イラスト・水木繁 |
有事法制 関連3法案
<武力攻撃事態対処法案>
攻撃を受けたときに、政府がどう動くかの基本ルールや手つづき、国と地方自治体(都道府県や市町村)の役割、国民の協力を定める。
<自衛隊法改正案> 自衛隊の活動をしやすくするために、民間の土地を使うときの手つづきをかんたんにする。また、決まりにしたがわない人への罰則などももりこむ。
<安全保障会議設置法改正案> 国の安全について話し合う会議のメンバーをふやし、専門委員会ももうける。
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――もし戦争になったときに、政府や国会がどんな役割をはたすのか。国民が何をしなければならないか。そんなルールを決めるのが有事法制だよ。いまの国会で成立する見通しになったのは、「武力攻撃事態対処法案」「自衛隊法改正案」「安全保障会議設置法改正案」の3つだ。
ケン 漢字ばっかりだなぁ。でも、日本は戦争をしないって憲法で決めてるはずじゃないの?
――そうだね。でも、政府は「もし、ほかの国から攻められたら、自分の国を自分で守る権利、つまり自衛権がある。これは平和憲法に違反しない」という考えだ。だから、ほかの国では軍隊とよばれるけれど、日本は自衛隊という名前だよね。
ジャン 自衛隊は前からあるのに、新しいことが決まったの?
――首相が自衛隊に出動を命じる規則は前からあった。でも、攻撃を受けたとき、どんな場合に、どの機関が対応を決めるのか、きちんとしたルールがなかったんだ。
今回の法案では、攻撃されたときや、攻撃されそうなときには、首相をトップにした「対策本部」をつくることになった。この対策本部で、どんなふうに対応するのか、すべて決めることになる。
ケン なんか、急に決めたって感じがするけど。
――政府は有事法制を約25年前から考え始めていたんだ。けれど、「戦争にそなえた法律をつくれば、かえって戦争をまねく」と反対する人が多かった。今回の法案は、去年から話し合いが始まった。
ジャン 反対する人もいたのに、今度はどうして法律ができそうなの?
――大きかったのは、衆議院で採決したとき、野党の民主党と自由党が賛成にまわったことだね。与党と民主党は話し合いをつづけて、民主党の考えも入れて法案をなおした。
ポン どこがかわったの。
――いくつかあるけれど、一番のポイントは「基本的人権」を「最大限尊重する」と法案の文章にはっきり書いたことかな。
ケン 基本的人権 ?
――今度の法案では、じっさいに攻撃が始まっていなくても攻撃が心配されるとき、自衛隊が個人の田畑に入って陣地をつくったり、政府が病院に負傷者の手当てについて協力をもとめたりできる。つまり、国民の権利があるていど制限されることもある。
そんなときでも、だれもが平等で差別をされない、自由に意見を発表できるなど、憲法で定められている基本的人権をできるだけ保障しようということにした。
ジャン 本当に、「戦争が起きるかもしれない」という考えでつくられた法案なのね。ママの心配もわかるな。
――それに、今度の法案では、とても大切な問題が後回しになっている。ほかの国が攻撃してきたとき、政府がどんなふうに国民を守るかを定める「国民保護法制」はまだできていないんだ。
ケン えーっ。ぼくもだんだん心配になってきたよ。
――与党と民主党は今回、1年以内に国民保護法制をつくると決めた。爆弾や毒ガスを使ったテロが起きたときの対策も、これから話し合う。それに、どこまでが日本の「有事」なのか、いまの法案では区別もはっきりしない。
ジャン どういうこと?
――たとえば、日本からはなれたところで活動している自衛隊の船が攻撃を受けたときも、戦争の始まりとみなすのかなどは、政府の判断にまかされた形だ。
ポン まだまだ、宿題がいっぱいだ。
ケン なにより、国どうしのつきあいや話し合いをしっかりやって、戦争を起こさせないようにしてほしい。
――その通りだね。
(03年5月24日)
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