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人質事件のイラクは、いま?

田岡 俊次記者(朝日ニュースター・コメンテーター)
ジャン

 イラクで人質にされた日本人計5人が無事に帰って来てよかったわ。

ケン

 だけど、イラクで援助活動や取材をする人たちを、なぜつかまえるのかな。

田岡記者

 まだ戦いがつづく都市や村などに知らない外国人が入りこんだら、アメリカのスパイじゃないかとうたがってつかまえるのも当然だ。調べて、そうでないとわかって解放された。

ポン

 イラクっていま、どうなってるの?

田岡記者

 イラクはアメリカとイギリス軍に占領され、社会が大混乱している。多くの民衆は占領軍に反感を持って、武器を手に抵抗しているんだ。

 占領軍への抵抗ますます激しくなる

 ジャン イラク戦争が終わったといってから一年以上たつのよね。まだ治安はよくならないの。

 ――よくなるどころか、ますます悪くなっている。抵抗運動をおさえこもうとしてアメリカ軍が民家に入りこんで調べたり、反抗的な人を射殺したり、つかまえたりすればするほどイラク人の反感が高まるのは当然だ。バグダッドの西のファルージャという町をアメリカ軍がかこんで攻撃し、イラク人800人以上が亡くなったとされるけれど、抵抗がはげしくて市内を制圧できない。

 ケン そんなにひどいのか。

 ――ファルージャだけじゃない。これまでしずかだった南部でも抵抗運動が始まって、今月4日には一度に南部六県の都市で、県庁や警察署などがある中心部が反アメリカ派の民兵に占拠された。アメリカ軍が取り返したのはひとつの市だけだ。

武装グループから解放され、帰国した高遠菜穂子さん(中央)と今井紀明さん(左)。今井さんの左奥は郡山総一郎さん=18日、東京・羽田空港で
アメリカ・イギリスの暫定占領当局の建物前で、抗議の金曜礼拝をするイスラム教シーア派の信者たち=2日、イラク・バグダッドで

 ジャン 新聞やテレビであまり、そのことは出てないようだけど。どうして?

 ――ほとんど戦闘にならなかったから注目されない。だけど、本当は戦闘にならないことが一大事なんだ。都市を守っていたはずのイラク人警察官は戦わずに町をゲリラに明けわたした。アメリカ軍はイラク人警察や軍隊を育てて治安を守らせるつもりだったが、軍隊はアメリカ軍の出動要求をこばみ、一部ではアメリカ軍に対して発砲したとの報道もある。

 ポン アメリカ軍とか、ほかの国の軍隊は町にいなかったの?

 ――イラクの北部はイスラム教のスンニ派で、南部はシーア派が多い。フセイン元大統領はスンニ派だったから、シーア派は反乱を起こして弾圧されたこともある。そこでアメリカは、ナーシリヤやナジャフなど南部のシーア派地域はアメリカの味方と考えた。アメリカ軍は北部に集中し、南部はイタリア、スペイン(19日に引きあげ開始)ポーランドなどの部隊を点々と配置していただけなんだ。

 ジャン 味方と思っていたイラクの人たちまで敵になっているのね。

 ――そうだね。県庁所在地を次々とゲリラに取られたから、各国の軍隊が向かったけど、かれらもイラク人と本気で戦ってにくまれては損だから、あまりやる気がないんだ。

 ケン アメリカは、たよりにしていたイラク人にそっぽを向かれ、ほかの国の軍隊もあてにできなくなったんだね。北でも南でも反乱が広がって、アメリカはどうする気なの。

 ――アメリカはこれまで自分が指導する新政府をつくる気だったが、16日に突然、国連がえらぶ新政府づくりの案を受け入れると発表した。1年前、国連が止めるのをふり切って攻撃したのに、いまになってこまりはて、後始末は国連中心でやってくれといいうわけだ。

 ジャン なんだか、ずるいような。

 ――国連中心でイラクの治安をたもち、復興を進めようとすると日本はことわりにくく、もっとお金や人を出すことになるかもしれない。今回、人質になった日本人に自己責任(危険をおかした本人の責任)を問う声が出ているけど、アメリカこそ後始末も自己責任でやってほしいと思うな。

イラクの動き

2003年3月20日 イラク戦争が始まる
4月9日 フセイン政権が崩壊
5月1日 アメリカのブッシュ大統領が大規模な戦闘が終わったと宣言
11月29日 日本人外交官ふたりが殺される
12月13日 フセイン元大統領がつかまる
2004年1月20日 陸上自衛隊が南部のサマワに入る
4月7日 郡山総一郎さん、高遠菜穂子さん、今井紀明さんが武装グループに人質としてとらえられる(15日に解放)
14日 安田純平さんと渡辺修孝さんが武装グループにとらえられる(17日に解放)
16日 ブッシュ大統領がイラクの暫定政権づくりを国連中心で進めると方針をかえる
19日 スペイン政府がイラクからのスペイン軍撤退を開始。中米のホンジュラスとドミニカ共和国も軍の撤退を決める

(04年4月24日)


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