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情報収集衛星打ち上げ

 

 


人間の宇宙飛行には風当たり強く


 宇宙から地上を調べる情報収集衛星が打ち上げられ、地球上どの地点も毎日1回以上撮影できるようになりました。ただ、実際にどんな画像が撮影できているのかは秘密で、期待通りの性能なのか、防災に本当に役立っているかわかりません。新しくできた宇宙基本計画のもと、宇宙開発の予算に4段階の優先度がつけられました。情報収集衛星や気象衛星は最重要とされ、国際宇宙ステーションにある日本実験棟などは最低ランクでした。宇宙開発はどうなっていくのでしょう。

 

 

国の情報収集衛星を載せて打ち上げられたH2Aロケット22号機=1月27日、鹿児島県南種子町で©朝日新聞

 

 

 

 情報収集衛星って何なの?
 宇宙から地表を監視する事実上の偵察衛星だ。1998年に北朝鮮から打ち上げられたミサイル「テポドン」が日本を飛び越えて太平洋に着水したことがあった。当時、ミサイルの情報が集められず、衛星による監視の必要性が叫ばれ、2003年に最初の衛星が打ち上げられた。
 望遠鏡で地上を見る光学衛星と、夜や曇りの時でも地上を探れるレーダー衛星がある。1月に1機が打ち上げられ、計画だった各2機、計4機による監視体制が整い、地球上のどの地点も毎日1回、撮影できるようになった。外国の軍事施設を見て日本に影響する動きがないか探ったり、災害時に被災状況を調べて救援活動に役立てたりする。


 東日本大震災の時も活躍したんだね。
 政府は、撮影した画像から被害の状況を推定した地図を作って、どの道路が通れるかや、農地や工場の被災状況を調べるのに使ったと説明している。九州南部の新燃岳の噴火や新潟県中越地震などでも役立てたという。ただ、情報収集衛星が撮影した写真が公表されたことは、いままでに一度もない。どれだけ役立っているのか、本当に期待通りの性能なのか関係者しか知ることはできない。


 どうして秘密なの。
 写真を公表すると、何かを隠したい相手に衛星の性能がわかってしまうから、対抗策を立てられ、今後の監視に影響するというのが理由だ。情報収集衛星は、これまでに約9千億円が使われている。多額の税金が使われるだけに、広く公表できなくても、信頼ある国会議員や専門家にチェックさせるような仕組みの必要性も指摘されている。


 どのくらいの性能か気になるね。
 推定では、光学衛星で約60センチの分解能で、来年度に打ち上げる衛星は40センチの分解能に性能が高められるとみられる。分解能は、この大きさの物まで見分けることができるという数字だ。小さいほど性能が高い。
分解能40センチは、画像を買うことができる商業衛星「ジオアイ1」と同じくらいの性能だ。最高性能のアメリカの偵察衛星は、10センチの性能があるといわれている。ただ、どれだけ役に立つかは、衛星の性能だけでなく、撮影した写真を読み取る技術や、写真を見て写っているものを分析する人間の能力も関係してくる。


 これからも、打ち上げられるんだね。
 政府の宇宙開発戦略本部は、新年度からの5年間の宇宙基本計画で、安全保障や防災、産業の振興、科学技術力の維持や向上につながる宇宙科学の3つを重点課題と決めた。予算も4段階に優先度がつけられ、情報収集衛星は「最重要」とされた。カーナビにも使われる米国のGPS衛星の日本版ともいえる準天頂衛星や天気予報に使われる気象衛星も最重要だ。
逆に国際宇宙ステーションの日本実験棟や月探査計画の研究は最低ランクの「見直しが必要」だった。多額の費用がかかる人間の宇宙飛行は「産業の競争力を強める成果が明らかではない」として、経費を減らすよう求められた。これまで宇宙飛行士の活躍で華やかだったが、今後は風当たりが強まりそうだ。


 人工衛星 静止衛星は赤道上空の3万6千`を回り、地上からみて同じ位置にいる。気象衛星や放送衛星などに使われる。極軌道衛星は、上空数百`を南北に周回。低い軌道のため地表が詳しくわかり、情報収集衛星や地球観測衛星などがある。準天頂衛星は南北に8の字を描くように見える特殊な軌道を飛ぶ。
 宇宙基本計画 日本の宇宙開発の基礎となる5年間の計画。首相がトップの宇宙開発戦略本部が決める。2008年に宇宙基本法ができ、宇宙開発は、研究開発ばかりでなく、宇宙の利用や宇宙産業の振興、安全保障にも重点が置かれるようになった。

 

 

朝日新聞編集委員 黒沢大陸

1963年生まれ。91年から朝日新聞記者。 科学医療部デスクなどを経て編集委員。 社会部や科学部で、防災や科学技術行政、 環境、鉄道などを担当、国内外で数々の 災害現場を取材した。

 

2013年2月17日

 

 

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