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「タックスヘイブン」から秘密が流出

 

 


政治家や大企業は利用の説明責任果たせ


 「タックスヘイブン」と呼ばれる地域があります。日本語で言うと「税金天国」です。税金がとても安くて、規制が緩く、秘密を守ってくれます。そこに会社をつくってひそかに財産を隠すという事件もありました。ところが、その秘密が大量に流出して大騒ぎになっています。

 

この5階建てのビルを1万8千社以上が所在地にしていました=イギリス領ケイマン諸島のグランドケイマン島で©朝日新聞社

 

 

 

 

 「税金天国」と言われても、よく分からないなぁ。
 まだ中学生だから、税金といえば、本とか物を買ったときに5%の消費税を払うことくらいかな。これは今から知っておいてほしいんだけど、大人になって給料をもらったりしてお金を稼ぐようになると、稼いだお金の何割かを税金として国や自治体に納めなければならない。これは会社も同じで、規模などにもよるが、もうけの約36%を法人税や地方税として納めなければならない。そうやって集められた税金で、国の機関が運営されたり、道路や学校が造られたりしているんだ。


 知ってる。教科書をお金なしでもらえるのも税金のおかげだよね。
 その通り。納税は国民の義務とされている。


 で、「タックスヘイブン」っていうのは何なの?
 「タックス」というのは英語で税金を意味する。「ヘイブン」というのは避難所を意味する。「租税回避地」ともいう。税率がとても低い場所、あるいは、税率がゼロの場所があるんだ。北アメリカと南アメリカの間にあるカリブ海の島々、ケイマン諸島とか、イギリス領バージン諸島とかが有名だ。


 その島に住めば税金がただになるんだ。
 実は、住んでいなくてもいいんだ。その島に会社をつくって、その会社がたくさんのお金を稼いだということにしてしまえば、納税を回避することができる。


 島に会社をつくる?
 書類のやりとりだけで会社をつくることができちゃうんだ。その島に事務所を置いたり、その島で社員を雇ったりする必要はない。


 そんな会社をつくって何の意味があるの?
 例えば、日本でたくさんの稼ぎがあったときには、タックスヘイブンの会社に「手数料」を払ったことにして、もうけをタックスヘイブンの会社に移す、というようなからくりを考えた人がいた。日本で払う税金を減らすことができる。タックスヘイブンでは税金を払わなくていい。したがって、納税額を全体として減らせる。


 そんなこと、まかり通っちゃうの?
 「手数料」の支払いが形だけのものだということが分かったら、脱税の罪で摘発される。でも、それを立証するのが簡単ではない。タックスヘイブンにつくられた会社は、ほとんど情報が開示されない。何でもかんでも秘密になっている。


 秘密?
 日本なら、会社の役員の名前、事務所の所在地が公開される決まりになっている。だから、その会社がどんな人たちによってどんなふうに運営されているのかが分かる。ところが、タックスヘイブンの会社は、そんな基本的な情報さえ秘密になっていることが多い。


 だから、「手数料」が本当なのかを調べるのが大変ということなんだね。
 そんなことで困っていたところへ、今回、タックスヘイブンの会社の内部の文書が大量に流出して、ぼくたち記者の手に渡るという出来事があった。その文書の中には、海外の政治家の名前なんかもあって、「いったいどうしてタックスヘイブンの会社を持っている?」と疑問が出ている。


 どうして?
 取材を拒否した政治家が多い。財産を隠していたことを認めた政治家もいる。


 それは良くないね。
 タックスヘイブンで会社の情報が秘密になっていることを悪用した事件は脱税のほかにもたくさんある。オリンパスとか、AIJ投資顧問とか、ライブドアとか、そういう会社の事件でもタックスヘイブンの島が登場した。
もちろん、タックスヘイブンの利用がすべて不当だというわけではない。専門家によれば、租税回避地を使えば、国境を越えたビジネスをスムーズに進めることができる利点がある。そういう正当なものも含め、2千兆円もの富がタックスヘイブンにあるとの見積もりもある。
だから、政治家とか、株式を公開しているような大きな企業とかなら、タックスヘイブン利用の理由をちゃんと説明してほしいね。

 

朝日新聞編集委員 奥山俊宏

1966年生まれ。89年から 朝日新聞記者。東京社会 部などを経て2006年から 特別報道チーム。ネット 新聞「Asahi Judiciary」 の編集も担当。著書に『ル ポ東京電力原発危機1 カ月』(朝日新聞出版)な ど。

 

2013年4月14日

 

 

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