人道支援を続け、安全確保の徹底を
中東の過激派組織「イスラム国」に人質として拘束されていたフリージャーナリストの後藤健二さん(47)と会社経営者の湯川遥菜さん(42)。2人が殺害されたと見られる映像が、ネット上で公開されました。この衝撃的な事件は、これからの日本の外交にも大きく影響しそうです。
政府の対応検証し、教訓に
Q 中東とかイスラムとか、とても遠いところの話だと思っていたけど。
A 日本と中東諸国との関係は、実は深い。なにしろ日本が輸入する原油のほとんどは中東から来ている。この地域が政治的に安定することが日本にとってとても大切なんだ。だから日本は第2次世界大戦後、中東には経済援助をはじめ様々な協力をしてきたんだよ。
Q そうだったんだ。
A 一方、イギリスやフランスはかつてこの地域を植民地支配していた。また、アメリカはアラブ諸国と敵対するイスラエルと極めて強い関係を持っている。こうした歴史的な経緯のある欧米に比べ、日本には親しみを持つ人がこの地域には多いと言われてきた。
Q じゃあ「イスラム国」はなぜ日本人を人質にしたの?
A この組織はヨルダンなど穏健なイスラム教国と違い、過激で原理主義的な支配をめざしている。日本は欧米と同じ民主主義国だし、「イスラム国」から逃げ出した難民を支援しているから、「日本も敵だ」と色分けすることで自分たちの存在や主張をアピールしたかったのかも知れない。
Q 後藤さんたちを救えなかったのは残念。
A そうだね。日本政府はヨルダン政府をはじめ中東に持っている様々なルートを通じて解放を求めたようだけど、犯行グループと直接交渉するのは難しかったみたいだ。
大切なのは、同じような事件が二度と起きないようにすることだ。今回の政府の対応を検証して、その教訓をきちんと引き継いでいくことが重要だ。
Q 自衛隊が助けに行けるようにすればいいという意見も聞いたことがあるわ。
A それは難しい。外国で起きた事件はその国の政府に任せるのが原則だ。いくら日本人が巻き込まれたからといって、自衛隊が勝手に乗り込んでいくわけにはいかない。仮にその国が認めても、自衛隊が武器を使うには憲法の制約があるし、自衛隊に救出作戦を成功させる能力があるかも問題になる。
武器の世界拡散阻止も重要
Q 日本はこれからどうすればいいの?
A 米、英、仏などは、シリアとイラクにまたがる「イスラム国」の軍事拠点への航空機による爆撃で組織を弱体化しようとしている。
ただ、憲法9条がある日本はもちろん空爆には参加できないし、安倍晋三首相は空爆への後方支援もしないと言っている。支配地域ではもともと住んでいた人たちもたくさん殺されている。空爆の巻き添えになって亡くなった人もいる。日本はこれまで通り、地域の国づくりや人道支援などを地道に続けていくべきだろう。
また、テロの危険は世界中で高まっている。中東に限らず海外で暮らしている日本人の安全確保を徹底する必要がある。また、テロリストや彼らが使う武器が世界に広がっていくのを阻止することも重要だ。
Q 日本にもイスラム教を信じる人たちがいるけど。
A 「イスラム国」のように暴力と恐怖によって人を支配しようとするのは許されないし、大多数のイスラム教徒はそうしたやり方はおかしいと思っている。だからイスラム教徒だからといって偏見を持つのは間違っているよ。
朝日新聞論説委員 国分高史
1964年生まれ。89年から朝日新聞記者。 佐賀県、福岡県などで勤務し、95年か ら政治部で首相官邸や外務省などを担 当した。今は政府や国会の動きのほか、 憲法や安全保障の社説を執筆。
2015年2月8日 |