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2016年4月10日付
大統領らしくない質素な生活ぶりから、「世界一貧しい大統領」と呼ばれた南米ウルグアイの前大統領、ホセ・ムヒカさん(80歳)。2012年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連会議のスピーチが感動をよび、世界中で注目の人となりました。日本の出版社の招待でこのたび、初来日しました。(倉坂益子)
ムヒカさんは、25時間かけて日本に来ました。大統領時代から専用の飛行機は持たず、大統領専用の家にも住まず、首都モンテビデオ郊外の質素な農場で、菊を育てて暮らしています。持っているお金の90%を寄付して、生活費は日本円で月に約10万円。財産は、30年乗り続けるフォルクスワーゲン・ビートルの車です。
「かんちがいしないで。貧しく生きろと言っているのではないよ。私にとっての質素は、したいことをする時間のこと。家や車などを追いかけていたら、したいことができないまま、人生が一瞬で通りすぎてしまう。私は、かかえこまない人生がしたいだけ」。ムヒカさんは、相手の目を見てゆっくり話します。
12年の国連会議で、各国の首脳が地球環境の未来について立派なスピーチをしていました。ウルグアイは小国で目立たず、順番も最後の方でした。しかし、ムヒカ大統領が十数分のスピーチを終えた時、聴衆は総立ちで拍手をおくりました。
「私たちは発展するために生まれてきたわけではない。幸せになるために、ここにいるんだ。環境の未来を本気で考えるなら、人間の幸福こそが環境の一番の要素でなければいけない」
このように、経済の拡大ばかりめざす現代社会を批判したのです。
「伝説のスピーチ」は日本でも絵本になり、16万部を超えるベストセラーに。発行する汐文社によると、副読本にする小学校が増えています。
ムヒカさんは12日まで日本に滞在し、講演会などをします。
「私はもうすぐ81歳なので、日本を観光しようとは思わない。日本国民は幸せだろうか、人として達成感を得ているだろうか、国の将来はどこに向かおうとしているのか。そんな問いを持って来ました」
ムヒカさんのスピーチが日本で受け入れられているのは、なぜでしょう。
「日本が大事に受け継いできた文化が、最近見えにくくなっていた。私のスピーチの中に、それを見つけているのかもしれないね。ささいなことでも、富より大事なことを見落とさないで。いま生きているここを、天国にしなくちゃね」
ウルグアイ
▽首都 モンテビデオ
▽人口 約342万人(2014年)
▽面積 17万6千平方キロメートル(日本の約半分)
▽公用語 スペイン語
▽通貨 ペソ
記者会見をするホセ・ムヒカさん。2010年から15年までウルグアイの大統領をつとめました=6日、東京都千代田区
記事の一部は朝日新聞社の提供です。