「学校にエアコン」の是非を問う
埼玉県所沢市
有権者が政治に参加する方法の一つに、「住民投票」があります。その地域に住む人たちの間で意見が分かれる問題について意見を聞き、地域の政治に反映させるしくみです。埼玉県所沢市では今月15日、小中学校へのエアコンの設置について賛成か反対かを問う住民投票が行われます。子どもたちにとっても身近な問題だけに、投票の結果に注目が集まります。
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住民投票にむけ、街頭活動をする保護者代表たち=8日、埼玉県所沢市 |
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中学校の上空を飛ぶ自衛隊の飛行機=埼玉県所沢市(C)朝日新聞社 |
騒音対策で暑いvs. 財政難
航空自衛隊入間基地に近い所沢市北西部。この地域にある小中学校29校は、飛行機による騒音対策として、防音効果がほどこされた校舎です。密閉性が高いので、夏場に窓を閉め切ると、とても暑くなります。
所沢市は、防音校舎にエアコンを設置すると決め、2009年度にまず1校に設置。しかしその後、11年の選挙で初当選した藤本正人市長は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、「快適さ優先から、自然との調和を図る方向に変えるべきだ」などとして、計画を中止しました。
中止された中学校の生徒の保護者らが去年9月、署名活動を開始。有権者数約28万人の「50分の1以上」の8430人分の署名を集め、住民投票が行われることになりました。
市長は、防音校舎すべてにエアコンを設置するには、市は約30億円を負担する必要があると主張。トイレの改修などを優先させるべきだとしています。市内の防音校舎ではない中学校に通う男子生徒は「将来の財政状況のことを考えると、夏の暑さもがまんできなくはない」。
一方、請求した保護者たちが求めているのは「一度設置が予定されていた2校へすみやかに設置し、その後は財政の状況を考えながら計画的に設置すること」。計画が中止された中学校に通う男子生徒は「暑さに加え、窓を開けていると飛行機が飛ぶたびに授業が中断するので、集中できない」。
法律上は、市長は投票結果に従う義務はありません。ただし今回の条例では、賛成、反対のいずれかが有権者の3分の1以上を上回った場合は、市長と市議会はその結果を重く受け止めなければならないとしています。
保護者代表の一人、大原隆広さんは「反対が上回ったとしても、それが市民の声だとすれば、受け入れるしかない」。
大阪都構想でも
都道府県や市町村の政治は、国の政治にくらべて、その地域に暮らす人たちの生活に深くかかわっています。そのため、地方自治法は、都道府県知事や市町村長(首長)をやめさせたり、条例を定めたりすることを求める「直接請求権」を定めています。請求には、その地域で選挙権を持つ人(有権者)のうち、一定以上の割合の署名を集めて、提出します。
住民投票は条例の制定を求める直接請求権を使って行われます。有権者の50分の1以上の署名を集めて首長に請求し、議会が住民投票条例を定めた上で投票を行います。
1990年代後半から、全国各地で住民投票が行われる事例があいついでいます。長野県平谷村で2003年に行われた市町村合併についての住民投票では、中学生以上の子どもにも投票する権利が与えられました。
今年5月には、大阪都構想について是非を問う住民投票が行われる予定です。
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