総合的な学習の時間

出典:朝日小学生新聞 2019年2月26日付

体験通して生き生きと学ぶ
 教科のわくをこえて活動し、成果をまとめる「総合的な学習の時間」(総合学習)。導入されたのは、2002(平成14)年です。それまでの「知識のつめこみ型」の教育の反省から、平成に誕生しました。(近藤理恵)

動物を育て表現力も豊かに
 長野県塩尻市立木曽楢川小の柿崎和子先生(58歳)は、先生になった1980年代から「体験型学習」に力を入れてきました。「大学生の時、子どもとともに学習をつくり出す教育に感動し、実践してきました」

 最初に赴任した長野県高山村立高山小では、アヒルを卵から飼いました。子どもたちと育て方を考え、小屋や池を作りました。「数年後、アヒルは20羽近くになりました。増えすぎたアヒルを売るかどうかもいっしょに考えました」

 その後も、赴任した小学校でヤギや羊などを飼い、体験を通した学びを伝えてきました。動物を飼うことで、家畜のおかれた社会的な背景や変化した住宅事情、生態など、さまざまな学びができたそうです。

 「動物を通して感じた喜びや悲しみを作文や詩にしたり、絵をかいたりしました。動物にじかにふれ、自ら考え、学んだ子どもたちは、表現力もすばらしかった」

 2002年に総合学習が導入されたときは「体験型学習の価値が認められる時代がやってきた」とうれしくなったそうです。それから20年近くたち、総合学習の知名度も上がりました。「保護者や地域住民の理解も深まり、より協力的になりました」。一方で、「生き生きと学ぶ子どもたちの姿はずっと変わらない」。

 16年度と17年度、柿崎先生は木曽楢川小の3年生と4年生の総合学習の時間で、「地域学習」を行いました。地域では人口が減り、空き家が増えました。子どもたちはこの問題を解決したいと、地域や学校をアピールするちらしを作り、お祭りの時に配りました。そのとき交流した県外のお客さんが移住して来たり、茨城県から小学生が体験学習に来たりしたそうです。

 「総合学習は『世界に一つしかない物語』をつくることができるのです」

地域とのつながりを生んだ
 総合的な学習の時間が始まる前の1992(平成4)年には、それまでの1、2学年の社会科と理科を合わせた「生活科」が始まりました。具体的な活動や体験を通して学ぶことを重視した教科です。

 総合学習にくわしい愛知淑徳大学文学部准教授の加藤智さんは、「生活科や総合学習は、それまでの知識ばかりをつめこむ教育への批判から生まれた」と解説します。「教科書の内容を一方的に教えるのではなく、体験を通じて子どもたちが自分から学ぶことで、当時の学習指導要領がかかげた『生きる力』を育てようとしました」

 また、総合学習は学校と地域のつながりを強めたと加藤さんは言います。地域の人や資料を授業に活用するなど、地域が学習の場になりました。それまで子どもがいないと無縁だった学校が、身近な存在になったのです。

 学力面でも、総合学習の影響があらわれています。文部科学省が実施している「全国学力・学習状況調査」において、総合学習を積極的に取り組んでいる児童ほど教科の平均正答率が高いという結果も出ています。「総合学習の成果は示しづらいので、今後研究を進めて、効果を伝えていきたい」

 一方で、学習内容を減らした「ゆとり教育」の象徴ともいわれ、2011(平成23)年度から始まった学習指導要領では、総合学習の時間が週3回から2回程度に減りました。加藤さんは「総合学習は、地域や学校間で内容に差が出てしまっている問題もある。席替えや委員会を決める時間にしている学校もあります。20年度から英語が教科化されるなど、先生の負担は増えるので、今後おざなりにならないか心配です」と話します。


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