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2017年9月24日付
市町村などの自治体が持つ全国約3200の公立図書館のうち、民間企業が運営を担う図書館が、少なくとも約650館、全体の2割に達している。魅力的なサービスを打ち出し、来館者数を増やす一方で、「利益優先」の動きを懸念する声も上がる。
神奈川県大和市の図書館を含む複合施設「シリウス」で7月17日、来場者200万人を祝う式典があった。6階建てのうち図書館が5階分を占める。昨年11月にオープンし、年間目標の150万人を早々に超えた。
人気の理由の一つは、高齢者らを対象に連日開かれる健康についてのセミナーだ。テーマは気軽にできる体操や、コレステロール値を考えた食事など。地元の病院の医師や社会福祉士らが講師を務める。
市からの委託を受けて運営しているのは、印刷大手大日本印刷の関連会社「図書館流通センター(TRC)」。同社はさまざまなアイデアを出し、運営する図書館の数を増やしている。現在は全国で約510館。10年前の5倍近くになっている。大和市の健康セミナーは、同様の取り組みを進めていた長崎市の図書館のノウハウを活用。大和市によると、運営費も直営の場合より抑えられているという。
TRCが東京都新宿区から受託し、今年3月にオープンした下落合図書館では、入り口でアロマが香り、閲覧席には鳥の鳴き声が流れる。座席の予約は大きな画面のタッチパネルからする。4月からは、愛知県豊田市や岡山県玉野市などでも引き受けた。
図書館運営にはレンタル店「ツタヤ」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、書店チェーンの有隣堂なども参入している。受託する民間企業にとって、図書館業務だけで大きな利益を生むことは難しいが、電子図書館システムの販売など関連ビジネスにつなげられる可能性もある。書店を併設し、図書館利用者に本の購入を促しているケースもある。
一方で、民間委託をあきらめる自治体も多い。愛知県小牧市は2015年、新図書館でCCCと連携する計画を立てたが、住民投票で反対が上回って頓挫した。CCCが運営する佐賀県などの図書館で、同社と関係のある業者から中古本を購入していたことが判明。利用者のためではなく、同社の利益を優先しているとの批判が出ていた。
いったん民間企業に委託をしたものの、自治体の運営に戻した図書館もある。新潟県南魚沼市や福岡県小郡市は、学校や地域との図書館の連携を強化するには直営のほうがやりやすいと判断。山口県下関市は「図書館業務はお金に換算できないところに価値がある」(中尾友昭・前市長)という理由で、民間委託をやめた。
全国約2200の図書館などで作る日本図書館協会は、民間業者に運営委託する根拠になっている制度が「公立図書館に基本的になじまない」としており、民間運営の公立図書館がこの調子で増えていくかはわからない。
図書館流通センターが運営する神奈川県大和市立図書館。平日は午後9時まで開いている
「ツタヤ」図書館の先駆け、佐賀県武雄(たけお)市図書館。館内にはカフェもある
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
野口陽
朝日新聞経済部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。