- 日曜日発行/20~24ページ
- 月ぎめ967円(税込み)
←2020年3月16日以前からクレジット決済で現在も購読中の方のログインはこちら
2017年11月26日付
タックスヘイブンの法人に関する大量の情報が、また新たに流出した。タックスヘイブンとは法人税などの税金がほとんどゼロに近いような国や地域のことで「租税回避地」ともいわれる。世界各国の記者たちはこの情報を「パラダイス文書」と呼び、米国政府の閣僚がロシアのプーチン大統領の周辺とのビジネスで利益を得ていたことや、大企業の租税回避を暴いた。
仕事で利益が出れば、その一部を税金として国や自治体に払う義務がある。日本をはじめ、多くの国で法律で決まっている。日本にある会社は利益の3割ほどを税金として国や自治体に払っている。会社員も給料から一定割合を天引きされている。そうした税金を使って道路や学校をつくったり、警察や消防の費用をまかなったりしている。
ところが、世界には、利益にかかる税金がほとんどゼロの国や地域がある。イギリス領のケイマン諸島やバミューダ諸島が有名だ。そうした場所に会社をつくって、その会社に利益をうまく移せば、結果的に税金を逃れられるかもしれない。そんな場所のことを英語ではタックスヘイブン、日本語では租税回避地と呼んでいる。
そんな場所に設立された会社や組合に関する文書の電子ファイルが、バミューダ諸島に拠点がある法律事務所など、あちこちから大量に流出した。南ドイツ新聞の記者が入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ⅠCIJ)を経て、朝日新聞を含む世界67カ国の96の報道機関が共有した。そして1年近くにわたって分析と取材を進め、11月5日、それにもとづく報道を始めた。
昨年4月に、租税回避地の法人に関する「パナマ文書」の報道が始まったが、今回も、その経緯とよく似ている。今回は、複数の人物から別々に提供された文書をひとくくりにして「パラダイス文書」と呼んでいる。
パラダイス文書をもとに記者たちが取材したら、いろいろなことが分かった。
米国政府のウィルバー・ロス商務長官が、タックスヘイブンにある複数の法人を介し、ロシアのプーチン大統領に近いガス会社との取引で利益を得ていたことがわかった。ロシアがクリミア自治共和国を自国に併合したことをめぐって、米ロは対立しているのに、政府の重要閣僚が、みんなが知らないところでこんな利害関係を持っていいのか、という声が上がっている。
医療機器メーカーが各国の医師らに株の権利を提供してもうけさせていたことも判明した。そのメーカーの医療機器の臨床試験に関わったり、その医療機器を患者に使ったりした医師もその中にいた。これについても、患者のために最善を尽くすべき医師の倫理に沿うようにするには、どうすべきなのだろうかという議論がある。
スポーツ用品大手のナイキ社が、スニーカーなど同社製品にあしらうロゴの商標権をタックスヘイブンに置くことで、欧州での販売収益への課税を逃れていた疑いも浮かんでいる。
米国や欧州では、パラダイス文書の報道をきっかけにして、今の法律を変えるべきだ、という意見も出ている。タックスヘイブンの実態が明るみに出ることで、いろいろな議論が始まっている。
パラダイス文書の流出元である法律事務所「アップルビー」の施設責任者(右)に取材を申し込む米テレビ局「ユニビジョン」のデイビッド・アダムス上級編集者(左)らICIJ提携の各国メディア=10月10日、英領バミューダ諸島の中心都市ハミルトン
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
奥山俊宏
朝日新聞編集委員
記事の一部は朝日新聞社の提供です。