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2018年1月14日付
トランプ米大統領が中東のエルサレムをイスラエルの「首都」と認めると宣言した。猛反発するパレスチナでは抗議活動が拡大し、国際社会でも米国の孤立が目立っている。イスラエルとパレスチナの中東和平交渉の再開はいっそう困難になった。
エルサレムはユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地だ。約1キロ四方の壁に囲まれた旧市街には、古代ユダヤ王国の神殿の壁の一部が残り、ユダヤ教徒が祈りをささげる「嘆きの壁」がある。ところが隣接する高台にはイスラム教の預言者ムハンマドが昇天したと伝えられる「岩のドーム」などがあり、イスラム教にとっても第三の聖地。街の帰属は宗教が絡む問題だ。
19世紀末、欧州などで迫害されたユダヤ人が祖先の地に祖国を建設しようとする運動を起こし、パレスチナに移住を始めた。元々暮らしていたパレスチナ人との衝突が始まった。
国連は1947年、パレスチナにユダヤ国家とアラブ国家を樹立する「パレスチナ分割決議」を採択。エルサレムは「国際管理都市」とされたが、イスラエルは48年の第1次中東戦争で西エルサレムを獲得。67年の第3次中東戦争後には東エルサレムを併合し、エルサレム全域を「首都」と宣言した。
一方、パレスチナ自治政府は、東エルサレムを将来のパレスチナ国家の首都と位置づけており、国際社会はエルサレムをイスラエルの首都と認めていない。日本を含む各国は大使館を地中海に面した商都テルアビブに置いている。
昨年12月6日、トランプ米大統領は「エルサレムをイスラエルの首都と公式に認める」と宣言し、大使館をテルアビブから移転するよう指示した。エルサレムの帰属はイスラエルとパレスチナの和平交渉で決めるという、米国を含む国際社会のこれまでの立場を覆すものだった。
抗議行動は、パレスチナ自治区各地に広がり、イスラエル治安当局との衝突が続いている。パレスチナの赤新月社(赤十字に相当)によると、これまでにパレスチナ人14人が死亡、5千人以上が負傷した。
国際社会もトランプ氏の宣言について、イスラエルのネタニヤフ首相が「和平への重要な一歩」と歓迎したが、国連安全保障理事会の緊急会合では15理事国のうち米国を除く14理事国から批判や懸念が相次いだ。
パレスチナ自治政府のアッバス議長は「米国はもはや公平な仲介者ではない」と猛反発し、米政府高官との面会も拒否する構えだ。米国を含む国際社会は、イスラエルと将来の独立したパレスチナの「2国家共存」による紛争解決をめざしてきたが、2014年に頓挫した交渉の再開はトランプ氏の宣言によってますます困難になり、混迷がさらに深まっている。
エルサレムの旧市街にあるダマスカス門の前で、米国に対し抗議のデモをする人たち=2017年12月8日
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
渡辺丘
朝日新聞
エルサレム支局長
記事の一部は朝日新聞社の提供です。