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2018年2月4日付
昨年末から、日本と韓国の政府同士の関係が悪くなりつつある。韓国の文在寅大統領が、日韓両政府が2年前に結んだ慰安婦問題に関する合意について、「これでは問題を解決できない」との立場を発表したためだ。慰安婦問題は、なぜ解決しないのだろうか。
慰安婦問題とは、日中戦争や太平洋戦争中、日本の統治下だった韓国などの女性たちが、日本軍の「慰安婦」として兵士らの性の相手を強いられ、人権を傷つけられた問題だ。
ただ、日本や韓国で「解決が必要な問題」と認識されたのは、韓国で金学順さんが1991年8月、初めて実名で「慰安婦だった」と名乗り出たのがきっかけだ。韓国政府は92年から聞き取り調査を始め、韓国政府が元慰安婦と認めた女性は、すでに亡くなった人を含めて246人になる。
長年、日韓間の難しい問題の一つになっていたが、2015年12月、日本政府は当時の朴槿恵政権と問題の「最終的かつ不可逆的(元に戻らない)」解決をうたった合意を結んだ。安倍晋三首相が慰安婦だった女性たちにおわびの気持ちを表し、日本政府は、韓国政府が設立する元慰安婦の支援財団に10億円を出すというのが柱だった。
財団はこの中から、元慰安婦の生存者47人のうち34人に各1億ウォン(約1千万円)、死亡者199人のうち58人の遺族に各2千万ウォンを支給する手続きを取った。
文氏は昨年5月、韓国の新大統領になった。合意を否定したのは、元慰安婦の意見を聞かないで日本と合意したことへの反発が、韓国で強まったことがある。合意後、日本の政治家らが慰安婦だった女性の心を傷つける発言をし、「日本はお金の力で問題にふたをした」という悪いイメージが広がったこともある。
ただ、文氏は同時に「両国が公式的に合意をした事実は否定できない」とも表明した。問題はあるが合意は維持するということだ。
安倍首相は強く反発した。文氏が、問題の「完全な解決」には日本側の「心を尽くした謝罪」が必要だと述べたためだ。
実は日本政府は95年、「アジア女性基金」を設立し、首相によるおわびの手紙と国民の寄付から「償い金」、国費から医療・福祉費を元慰安婦に渡す事業をおこなった。韓国の元慰安婦の多くは「日本政府の責任をあいまいにしている」と受け取りを拒否し、日本側に「何度謝れば済むのか」との不満が生じるきっかけになった。
慰安婦問題は、人権問題であり、また両国の国民感情とかかわるだけに、外交交渉だけでは解決が難しい。日韓は北朝鮮の核・ミサイル問題の対応では協力しあっているが、今後関係がどうなるか見通せない。
(C)朝日新聞社
解説者
武田肇
朝日新聞ソウル支局記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。