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2018年3月11日付
国の奨学金にからむ自己破産が、借りた本人だけでなく親族にも広がっている。破産した人は過去5年間で延べ1万5千人。奨学金制度を担う日本学生支援機構などが明らかにした。背景には、学費の値上がりや非正規雇用の広がりに加え、機構が回収を強めた影響もある。
機構は2004年度に日本育英会から組織を改めた独立行政法人で、大学などへの進学時に奨学金を貸す。返還できない時に財産を引き渡す担保や、貸せるかどうかを調べる審査なしに借りられる。借りる人は連帯保証人(父か母)と保証人(本人のいとこなどまでにあたる4親等以内)を立てる「人的保証」か、保証機関に保証料(貸与額の2~6%程度)を払う「機関保証」を選ぶ。卒業後、20年以内に分割で返す。16年度末現在、410万人が返している。
機構などによると、奨学金を負債に含む自己破産は16年度までの5年間で延べ1万5338人。内訳は本人が8108人で、連帯保証人と保証人が計7230人だった。国内の自己破産が減る中、奨学金関連は3千人前後が続き、16年度は最多の3451人と12年度から13%増えた。
ただ、機構は1人で大学と大学院で借りた場合などに2人と数える。機構は「システム上、重複を除く実人数は出せないが、8割ほどではないか」とみる。破産した理由や負債額については「立ち入って調査できず分からない」。
自己破産は、借金を返せる見込みがないと裁判所が認めれば返済を免れる手続きだ。その代わりに財産を処分され、住所・氏名が国の発行する官報に載る。一定期間の借り入れが制限されるなど不利益もある。
この30年間で国立大の授業料は2.13倍の年間約54万円、私大は1.76倍の同約88万円になった。一方で平均給与は大きく上がっていない。卒業後も非正規雇用などで収入が安定せず、奨学金の返還に苦しむ人が後を絶たない。3カ月以上延滞している人は、16年度末で16万人にのぼる。
延滞が3カ月続くと、機構は延滞者を個人信用情報機関に登録し、クレジットカードが一定期間使えなくなる。4カ月で債権回収会社による督促を開始。9カ月以降、貸与金と利子、延滞金の一括返還を求める。裁判所から延滞者らに一括返還を促すよう申し立てたのは、この5年間で約4万5千件。育英会時代には延滞額の多さを指摘されており、機構は銀行などの金融機関が行うような手法も採り入れて回収を強めた。
一方で返還に苦しむ若者が相次いだため、機構は14年度、延滞金の利率を10%から5%に下げる▽年収300万円以下の人に一定の間返還を待つ猶予制度の利用期間を5年から10年に延ばすなどの対策を採ったが、自己破産は後を絶たない。猶予制度の利用者は16年度末で延べ10万人にのぼり、19年春以降に期限が切れ始める。
機構の遠藤勝裕理事長は「自己破産は奨学金だけが原因かはわからないが、1人でも減らしたい。保証人を立てずに済むよう100%機関保証(現在は約半数が選択)にする議論をしていく。ただ、奨学金の原資は税金。返還されなければ、次に貸せない。金融の枠組みを維持するのも使命だ」と話す。
東京にいる息子が奨学金を借りた際に提出した返還誓約書。大学卒業後、息子は返還しきれず、連帯保証人となっていた大阪の父親も自己破産した(画像の一部を加工しています)
どれも(C)朝日新聞社
解説者
諸永裕司
朝日新聞特別報道部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。