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2018年3月18日付
小説や音楽、美術などの著作権が保護される期間を、作者の死後「50年」から「70年」に延ばす著作権法改正案が、近く国会に提出される見通しだ。ひ孫の代に至るまで作者の利益が保護されるが、新たな作品が生まれにくくなるなど課題も多い。
著作権は、小説を書いた作家や楽曲をつくった作曲家が持つ権利。この権利があるから、作家や作曲家は他人が勝手に小説を本にして出版したり、楽曲をインターネットで配信したりすることを禁止できる。印税などを受け取れるのも、著作権を持っているからだ。
著作権は特許などと違って作品が生まれた瞬間に自動的に発生し、一定期間が過ぎると消滅する。この消滅までの期間が「著作権の保護期間」で、日本は作者の死後「50年」、米国やヨーロッパの主要国は死後「70年」で日本より20年長い。
世界的なヒット曲やベストセラーなど、海外で人気のコンテンツを多数持つ欧州主要国と米国は、「死後70年」にそろえるよう求めてきた。環太平洋経済連携協定(TPP)で米国の主張を受け入れる形で日本は延長を決定。トランプ大統領の「TPP離脱」宣言で、TPPでは延長は凍結になったが、その後の欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)で、結局、日本は延長を受け入れた。
保護期間が延長されるとどんな影響があるのか。
小説でいえば、出版や翻訳、映画化などの著作権者の許可が必要な期間や、印税を支払う期間が20年長くなる。例えば、中央公論新社は、2016年に著作権が消滅した谷崎潤一郎の新全集を前年から刊行。全26巻のうち16年以降に出した18巻分は印税が発生しなかったが、保護期間が延長されていたら、印税の支払いが必要だった。
読者にとっては、無料で楽しめる時期が先延ばしされる。例えば、約1万5千作品が自由に読めるネット上の電子図書館「青空文庫」には、著作権が消滅した作品が公開されている。保護期間が延長されると、青空文庫での公開も20年先になる。
新たな作品が生まれにくくなるのも大きな問題だ。著作権が消えることで、出版社は小説の新たな翻訳本を自由に刊行できるようになるし、映画会社は小説を原作にした映画を作りやすくなる。延長で、そういう作品の二次創作をしやすくなる時期が20年先送りされる。作家のひ孫の「気分」で、小説の映画化ができないなど新たな文化の芽がつまれるおそれがでてくる。
著作権法は第1条で「文化の発展」を目的に掲げている。保護期間の延長は、この目的の実現をかえって妨げるのではないか。専門家や作品の作り手から、そんな声があがっている。
電子図書館の「青空文庫」のテキストデータ作りの現場。著作権の保護期間が延長されると、青空文庫での公開も20年先になります
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
赤田康和
朝日新聞文化くらし報道部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。