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2018年9月2日付
7月のカンボジア総選挙(下院・125議席)でフン・セン首相の与党・人民党が全議席を獲得した。2月の上院選でも国王らが決める4議席以外をすべて得ていて、与党が国会の議席を独占する。対抗勢力を抑え込む現政権には、まるで「独裁」だとの批判も強まっている。
「自由で民主的な選挙で多くの国民の支持を得た」。人民党の広報官は総選挙の圧勝に胸をはった。だが欧米諸国や人権団体は、今回の選挙は「自由でも公正でもない」と批判する。というのも、2013年の総選挙、昨年6月の地方選挙でも4割以上の票を集めた最大野党・救国党が解党され、参加できなかったからだ。
昨年9月、「政府転覆を謀った」として救国党のケム・ソカ党首が逮捕された。同11月にはこのたくらみに関わったとして、最高裁が救国党の解党と、党員118人の政治活動5年間禁止を命じた。
30年以上首相を務めてきたフン・セン氏が、救国党の躍進に危機感を感じ、締め付けを強めたものとみられる。政府に批判的なラジオ局や新聞社も閉鎖に追い込まれ、NGOも活動を制限された。カンボジアではいま、ものを言いにくい空気が国中に広がっている。
今回の総選挙の投票率は83.02%と、前回の69.61%を大きく上回った。与党支持者が有権者を脅したり金を渡したりして、無理やり投票に行かせた影響が大きい、と指摘されている。一方、無効票の割合も前回の1.6%から8.54%に増えた。現政権に反発し、白票などを投じた人も多くいた。
与党の議席独占についてNGOで働く男性は、「与党は何だって決められる。我々は沈黙を続ける」と不安を隠さない。
米国や欧州連合(EU)は税制優遇の見直しなどの制裁強化を検討している。だが人民党のソク・エイサン広報官は会見で、「制裁はナンセンス。効果はない」と一笑した。
欧米が背を向けても強気でいられるのは、経済大国・中国の後ろ盾があるからだ。中国のカンボジアへの投資額は1994~2016年に累計約1.3兆円にのぼり世界1位。野党解党や人権問題に口を出さず、投資する中国は現政権には好都合だ。中国依存がさらに強まるとの見方もある。
自国民を虐殺したポル・ポト派の支配や、長い内戦をへて、カンボジアは25年前に国連の下で総選挙を実施。民主化への歩みを日本は応援してきた。
だが、強権的な政権が「勝利」した今回の選挙後、河野太郎外相が遺憾を表明する一方、二階俊博・自民党幹事長は祝辞を贈るなど、日本の態度はあいまいだ。カンボジアのこれからにどう関わっていくのか、日本の姿勢も問われている。
(C)朝日新聞社
カンボジア南部カンダール州で投票するフン・セン首相=7月29日
(C)朝日新聞社
カンボジアと日本の国旗を掲げ、「国際社会は不正な選挙を認めない」と訴える在日カンボジア人。
動画で同時配信する姿も見られた=7月29日、東京都港区
(C)朝日新聞社
解説者
鈴木暁子
朝日新聞
ハノイ支局長
記事の一部は朝日新聞社の提供です。