朝日中高生新聞
  • 日曜日発行/20~24ページ
  • 月ぎめ967(税込み)

NEWS WATCHER

難航する英国のEU離脱交渉

2018年10月28日付

 来年3月の英国の欧州連合(EU)からの離脱まで、半年を切った。だが、交渉が行き詰まり、英、EUの市民生活や経済が離脱後、混乱する恐れが高まっている。離脱は2年以上前に決まっていたのになぜ、もめているのか。その背景と見通しを整理した。

加盟国アイルランドと隣り合わせ

北アイルランド巡る問題で歩み寄れず

 英国のEU離脱後に市民の生活に大きな影響が出ないよう、英国とEUは重要な分野に絞って新しいルールを決める交渉をしている。新ルールはそれぞれの議会で承認するための時間が必要で、10月の合意を目指していたが、互いの意見に違いがあり、結論は見送られている。
 交渉がもめている一番の理由は、アイルランド島だ。この島には、英国の一部である北アイルランドと、EUの加盟国であるアイルランドが隣り合わせにある。北アイルランドでは英国寄りとアイルランド寄りの住民が対立し、過去に多数の死者が出たことがある。
 この歴史的背景から、英国とEUは離脱後もアイルランド島で貿易の検査など、厳しい国境管理をしないことを決めたが、その方法で意見が分かれている。EU側は、いい解決策が見つからなかった場合、貿易に関税がかからないEUの「関税同盟」に北アイルランドを残すことを提案。英国は「英国を分割するようなもの」と反発し、北アイルランドだけでなく、英国全体を一時的に関税同盟に残すよう主張している。英国の案は、EUの基本ルールの一部だけを都合よく受け入れるものとされていて、お互い歩み寄る様子はない。

何も決まらないまま離脱の日を迎える可能性も

貿易や移動などの混乱を心配する声

 英国とEUはこれまでの交渉で来年3月の離脱後、離脱を円滑にすすめるための「移行期間」を2020年12月まで作ることで合意している。この間は今まで通り基本的にEUのルールが適用される。ただ、北アイルランド問題を含むすべての交渉事項で合意しない限り、移行期間もなくなる仕組みになっている。
 そのため、北アイルランド問題を解決できなければ、何の取り決めもないまま離脱の日を迎えることになる。そうなると、英EU間の貿易や飛行機での移動などに大きな混乱が起きると予想されていて、心配する声が大きくなっている。
 EUは合意の最終期限を12月まで延ばしたが、それまでに交渉がうまくいく保証はない。英国のメイ首相が率いる保守党は昨年の総選挙で負けて、下院で物事を単独で決められる過半数の議席を失った。同じ保守党内にも、EUのルールに強く反対する議員と、EUを支持する議員の両方がいて、北アイルランド問題にも様々な意見がある。
 英国とEUが新ルールで合意したとしても、英国の議会で承認されない可能性があるため、英国は大幅な譲歩はしにくい。交渉の先行きは極めて不透明だ。

記者会見する英国のメイ首相の写真
EU首脳会議を終え、英国旗とEU旗を背景に記者会見する英国のメイ首相。会議では、英国のEU離脱交渉の継続を求める演説をした=18日、ベルギー・ブリュッセルのEU本部
どれも(C)朝日新聞社

英国を含む地図

英国のEU離脱で想定されるシナリオの図

津阪直樹記者の写真
解説者
ざかなお
朝日新聞ブリュッセル支局長

関連記事

最新の記事

    記事の一部は朝日新聞社の提供です。

    • 朝学ギフト

    トップへ戻る