朝日中高生新聞
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不正調査15年、厚労省の「毎月勤労統計」

2019年2月17日付

 国がつくる重要な統計の一つ、「毎月勤労統計」が、2004年から15年にわたって間違った方法で調べられていた。この統計は、仕事を失った人がもらえるお金などを決める基準にもなっていて、のべ約2千万人の給付額が合計約564億円少なかった。ほかの統計でも問題が続々と明らかになり、影響が広がっている。

給与額などの統計、都内の大規模事業所は3分の1だけ調査

雇用保険などの給付水準が下がる

 統計は「何かの集まり」について、全体の傾向や性質を表す数のことだ。毎月勤労統計は働く人がもらった給料の金額や働いた時間などを、厚生労働省が毎月調べてつくっている。給料が増えているか減っているかなどの傾向をみることができる。国が特に重要な「基幹統計」と位置づけている56種類の統計の一つで、政策をつくるための土台になっている。
 統計は決められたルールを守って調べないといけない。毎月勤労統計については、働く人が500人以上いる会社や工場などは全て調べるルールになっているが、厚労省は2004年から東京都内の約1400カ所については3分の1しか調べない不正を始めた。18年1月からは、全て調査したようにみせかけるために「データを3倍にする補正」もひそかにしていた。
 首都圏の規模の大きい会社は、給料が高い傾向にある。この約1千カ所が調査からはずれ、補正もされなかった04~17年は、公表されていた給料の金額が実際より少なくなっていた。
 毎月勤労統計は「雇用保険」や「労災保険」などの給付水準を決める基準に使われる。失業して仕事を探している人への失業手当や、育児や介護のために休んだ時にもらえる給付金、仕事中のけがや病気で働けなくなった時にもらえる休業補償などだ。不正の影響で、これらが本来もらえる額より少なく支払われた人はのべ2千万人以上、事業所は約30万件にのぼった。
 厚労省は今後、足りなかったお金を追加で払うと説明している。ただ、すでに住所が分からなくなっている人もいて、全員に支払いきれない可能性がある。

不正の実態調査も不十分でやり直し、ほかの統計にも問題

国の仕事ぶりそのものに疑いの目

 この問題は、昨年末に発覚した。なぜこんな不正が長年続けられてきたのか。厚労省はその原因を調べるため、今年1月16日に弁護士などがメンバーの「特別監察委員会」をつくり、不正に関わった厚労省の職員らを調べてもらった。
 ただ、監察委が調査報告書を発表したのはわずか6日後で、その内容は十分に調査が尽くされたとはいえないものだった。さらに「身内」の厚労省職員が関係する職員に聞き取り調査をしていたことも判明。調査結果には納得がいかないという批判が相次いだため、調査はやり直されることになった。
 この不正がわかった後、政府はほかの基幹統計でも問題がないか調べた。その結果、必要な項目を集計していないなど、問題があったものは4割にのぼった。統計をつくる国の仕事ぶりそのものにも、疑いの目が向けられ始めている。
 不正を続けてきた役人はもちろん、長年にわたって問題を正せなかった厚生労働大臣ら政治家の責任も重い。

記者会見で質問に答える厚生労働省の根本匠大臣の写真
記者会見で質問に答える厚生労働省の根本匠大臣=1月11日、東京・霞が関
どちらも(C)朝日新聞社

厚生労働省の統計不正で追加給付される手当などをまとめた図

村上晃一記者の写真
解説者
むらかみこういち
朝日新聞東京本社
経済部記者

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