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2019年4月14日付
互いに核を保有するインドとパキスタンによる軍事的な緊張が高まっている。2月には戦闘機を撃ち落としたり、空爆したりする事態に発展。話す言葉も食べるものもよく似た国同士だが、それぞれが強硬姿勢を崩せない事情を抱えている。
きっかけは、2月14日に起きたテロだった。インドとパキスタンの中間にあるカシミール地方のうち、インドが実効支配するジャム・カシミール州でバスが爆発し、乗っていたインド治安部隊約40人が死亡。インド軍は、敵対するパキスタン軍が武装勢力にテロをやらせた、と非難した。
インド軍は12日後、仕返しのためにパキスタンにある武装勢力の関連施設を空爆した。空爆は的を外したが、記者が空爆地点を訪ねたところ、武装勢力が若者を「戦士」として育てる学校が、すぐ近くにあった。
パキスタン軍も反撃した。空爆の翌日、インド側にミサイルを撃ち、慌てて飛んできたインド軍機を戦闘機で撃墜。緊急脱出したパイロットを拘束した。
自国民に「戦果」を示せたパキスタンは一転、火消しを図った。パイロットをインドに送り返し、カーン首相が緊急演説で沈静化の意向をのぞかせた。財政難にあえぐ今、軍事大国インドと張り合う余力が無いというのが本音のようだ。
インドとパキスタンは、1947年に英国から独立するまで同じ「国」だった。ヒンドゥー教徒が多いインドと、イスラム教徒が多いパキスタンに分かれて独立したが、言葉は似通っていて、スパイスの効いたカレーなどの料理も近い。
ただ、その中間にあるカシミール地方はどちらの国に帰属するかという問題を抱えている。独立当時の支配者はヒンドゥー教徒だが、住民の多くはイスラム教徒だった。両国が兵を送り込み、第1次印パ戦争が起きた。
停戦後はカシミール地方を分割支配することになったが、それ以降も戦争が2度勃発。軍拡競争の末、98年には両国が核実験を行った。
核を持って戦争がしづらい分、両国が力を注いでいるのが工作活動だ。武装勢力を陰で支援してテロをやらせていると、双方が非難。2月のテロも、その一つと指摘されている。
また、政治要因も大きい。インドのモディ政権は、ヒンドゥー教徒の反イスラム感情に訴えてきた。4~5月に総選挙を迎えるモディ首相は、パキスタンに歩み寄って弱腰だと批判されるより、緊張を長引かせたほうが票を集めやすいという指摘もある。総選挙が終わるまでは、両国の対話は進まないという見方がもっぱらだ。
パキスタンにも譲歩しづらい事情がある。軍事独裁が長かったパキスタンでは、軍が今も絶大な力を持つ。意に背いた政治家は軒並み失脚してきた。軍が優位の体制が続く限り、インドとの融和の見通しは暗いのが現状だ。
1947年 英国から両国がそれぞれ独立。中間にあるカシミール地方をめぐり最初の戦争が起きる
49年 国際連合の調停により停戦協定が結ばれ、カシミール地方が両国の分割統治に
65年 2度目の戦争が起きる
71年 3度目の戦争が起きるパキスタンからバングラデシュが独立
98年 両国があいついで核実験を行い、事実上の核兵器の保有国に
(C)朝日新聞社
解説者
乗京真知
朝日新聞イスラマバード支局長
記事の一部は朝日新聞社の提供です。