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2019年5月12日付
トランプ米大統領が3月、中東のゴラン高原におけるイスラエルの主権を正式に承認した。ゴラン高原は、かつてイスラエルが戦争でシリアから奪った土地。国際的には「イスラエルは撤退するべきだ」とされてきたのに、それに逆行するトランプ氏の判断は波紋を呼んでいる。
ゴラン高原は、中東のイスラエルとシリアの国境にある高地のこと。大阪府くらいの広さがあり、標高は平均で1千メートルほどだ。
この土地をめぐって争いが絶えない理由は、その地形と場所にある。ゴラン高原に立つと、眼下にシリアとイスラエルが見下ろせる。ここに大砲を設置すれば、相手に対して一気に有利になるわけだ。また、乾燥した地域である中東において貴重な「水源」となる湖や川があることも、争いの火種になってきた。
実際、イスラエルとシリアはこの地をめぐり、長く対立を続けてきた。イスラエルはかつて、ゴラン高原の砲台を使ったシリアからの攻撃に苦しめられた過去がある。そこで1967年、戦争で勝ってゴラン高原を奪い取った。そのまま占領を続け、軍隊を置いてシリア側に目を光らせてきた。81年には一方的にイスラエルに併合し、いまでは人口の半分近くがユダヤ人。残りは、「ドルーズ派」と呼ばれるアラブ人が中心だ。
しかし、武力で奪った土地をそのまま自分の領土にすることは、国際法違反だとされる。国連はイスラエルに占領地から撤退するよう求め、併合も無効だと決議した。米国も当時は、これらの決議に賛成している。
1946年 シリアがフランスから独立。ゴラン高原も領土の一部に
67年 第3次中東戦争。イスラエルがゴラン高原などを占領
国連安全保障理事会がイスラエルの撤退を求める決議
81年 イスラエルがゴラン高原を「併合」
国連安保理が「併合」を認めぬ決議
2019年 米国がゴラン高原におけるイスラエルの主権を承認
今回、トランプ氏は歴代の大統領の方針から一転して、ゴラン高原におけるイスラエルの主権を認める宣言をした。主権とは、その土地の統治権、支配権といった意味合い。つまり、イスラエルの領土だと認めたわけだ。こんな宣言をした国は過去に例がない。
宣言の理由は二つあると言われている。
一つは、「盟友」と言われるほど仲がいいイスラエルのネタニヤフ首相を応援するためだ。4月9日の総選挙に向け、ネタニヤフ氏は苦戦していた。外交上の「成果」をプレゼントして、選挙戦に追い風を吹かせようとしたとされている。
もう一つは、トランプ氏自身の支持者へのアピールだ。トランプ氏は米国で、「キリスト教福音派」と呼ばれる人たちに支えられている。福音派の多くは「イスラエルは神がユダヤ人に与えたものだ」と信じ、イスラエル寄りの政策を歓迎する傾向にある。
ただ、トランプ氏の姿勢には世界から批判が集まっている。シリアを含むアラブ諸国はもちろん、欧州連合や日本も反対の立場を表明している。
シリア南部をのぞむゴラン高原の展望台でガイドの説明を受ける観光客=2018年5月、ゴラン高原
どれも(C)朝日新聞社
トランプ大統領
ネタニヤフ首相
解説者
高野遼
朝日新聞エルサレム支局長
記事の一部は朝日新聞社の提供です。