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2019年7月21日付
国際的な課題について話し合う主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が6月末に大阪市で開かれた。その主要テーマのひとつがプラスチックごみによる海の汚染。今やプラごみの削減は世界的な課題だ。そんな中、大阪府堺市内で見つかったペットボトルを「食べる」細菌が、世界の注目を集めている。
この細菌は堺市内のペットボトルの処理工場で、京都工芸繊維大の小田耕平教授(現・名誉教授)らが見つけた。発見場所にちなんで「イデオネラ・サカイエンシス」と名付けられた。
慶応大に在籍していた吉田昭介さん(現・奈良先端科学技術大学院大特任准教授)らの研究で、特殊な2種類の酵素を出して、ペットボトルなどの素材として利用されているプラスチックの一種「ポリエチレンテレフタレート(PET)」を分解し、栄養源としていることがわかった。厚さ0.2ミリのPETを、約1カ月で二酸化炭素と水にまで分解するという。
2016年に吉田さんや小田さんらが研究成果を論文発表すると、世界が驚いた。細菌がどのようにPETを分解しているか研究すれば、PETのリサイクルがより安く、簡単にできると期待される。さらに、プラごみ問題の解決にもつながる可能性もある。繊維会社など世界の大手企業から問い合わせが殺到。各国が研究に取り組み始めた。
17年に中国科学院などの研究チームが酵素のうちの一つの構造を解析して論文を発表。18年には構造をより詳細に調べた韓国の研究チームや、チリの研究チームなども次々と論文を出した。英国の研究チームが酵素を改良して分解速度を少し速めることに成功すると、英公共放送BBCは「ペットボトルのリサイクルに革命をもたらし、プラスチックをより効果的に再利用することを可能にする」と報道した。
今年になっても、ドイツのチームがもう一つの酵素の立体構造の解析に成功するなど、研究競争は過熱している。吉田さんらも効率よく分解させるための条件を探すなど競っている。
こうした細菌が注目されるのは、プラごみによる環境汚染が深刻になっているからだ。特に海には、毎年478万~1275万トンが流出していると試算されている。一部は紫外線や波で劣化して砕け、5ミリ未満の粒「マイクロプラスチック」になって漂う。有害物質を吸着したマイクロプラスチックを魚介類が取り込むと、食物連鎖で人間を含む多くの動物に悪影響を及ぼす恐れがあると指摘されている。
マイクロプラスチックはすでに、海鳥や魚介類の体内から見つかっているほか、海外では水道水や塩、ビールなど私たちが日常生活で口にするものからも検出されている。実際に人間の便からも見つかっている。
欧州食品安全機関(EFSA)は「人間の体内での動態や毒性を明らかにするにはデータが十分でなく、有害かどうかを明示するのは時期尚早だ」との見解を公表しているものの、放置できない問題だ。
そこで、G20サミットの首脳宣言には、2050年までに新たな海洋汚染をゼロにすることをめざすなどとした「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有すると明記された。
インドネシア・バリ沖の海面付近を漂うごみ。プラスチック製品が多く、小魚が隠れていた=2018年12月
(C)朝日新聞社
解説者
田中誠士
朝日新聞
科学医療部記者
記事の一部は朝日新聞社の提供です。