朝日中高生新聞
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ハワイで望遠鏡の建設に住民が反対

2019年9月22日付

 日本や米国などが米ハワイ島に建設しようとしている世界最大級の天体望遠鏡「ティーエムティー」が、聖地マウナケア山の景観や環境を壊しかねないとして、先住民らが建設に反対して道路を封鎖する騒ぎになっている。非常事態宣言が出され、日本のすばる望遠鏡など運用中の望遠鏡も一時、観測中止に追い込まれた。

観測には絶好の場所だが、約束は13基まで

聖地の山頂 環境や景観の悪化心配

 自然豊かなハワイ島で7月17日、住民33人が逮捕される混乱があった。マウナケア山の山頂に続く唯一の道路に数百人が座り込みを始めて3日目。現地メディアによると、ハワイ語で「クプナ」と呼ばれる長老も逮捕され、抗議が激化。ハワイ州のデービッド・イゲ知事は非常事態宣言を出した。日本のすばる望遠鏡など山頂に13基ある望遠鏡は、いずれも職員がたどり着けなくなって観測中止になった。
 先住民らが反対しているのは、聖地である山頂付近には、「ヘイアウ」と呼ばれる神殿の遺跡や埋葬された遺骨も点在し、建設によって山が汚されたり、ふもとからの景観が悪くなったりするという心配があるからだ。
 一方、研究者にとって、観測の邪魔になる大気のゆらぎが少なく、一年中天気がいい標高約4200メートルのマウナケア山は絶好の場所だ。これまで、日本の「すばる」など13基の望遠鏡が建てられた。ただ、もともと「望遠鏡は13基まで」と取り決められていたため、14基目となるTMTの計画に対し、反対運動が起こった。

古い望遠鏡の撤去やデザイン変更で配慮するも…

合意得られず、建設開始の期限を延期

 研究者をまとめるハワイ大などは、先住民の文化を学ぶ施設や奨学基金を設けて対話を続け、TMTを建設する代わりに古い望遠鏡を撤去すると決めたり、TMTを景観に配慮するデザインに変えたりした。だが、合意は得られず、住民側が裁判所に提訴。いったん住民側が勝ったものの、昨秋、州最高裁で住民側の訴えを退ける判決が確定し、州が今年6月に建設再開を認めていた。
 今回の住民側の座り込みや訴えには、俳優レオナルド・ディカプリオさんやハワイ出身のミュージシャン、ブルーノ・マーズさんら著名人も賛同を表明している。
 こうした中、ハワイ州のイゲ知事は7月末、工事を始められる見通しが立たなくなったとして、TMTの建設開始の期限を2年間延長すると発表した。山頂への道路も一部通行が認められ、中止していた望遠鏡による観測も8月中旬から再開している。ただ、建設中止を求める住民の座り込みは今も続いている。
 TMTに参加する国立天文台のいわいくる副プロジェクト長は「すばる望遠鏡などを通して築き上げてきた地元の方との信頼関係を生かし、建設への理解に向けて引き続き対話を続けたい」と述べ、早期の建設をめざす考えを示している。

 【TMT】鏡の直径が30メートルある超大型望遠鏡。Thirty Meter Telescopeの略。太陽系の外にある惑星を探したり、宇宙で最初に生まれた星の観測などを狙う。日米中とインド、カナダが約2千億円を投じて2027年度の完成をめざしている。

ハワイ島の地図

■解説者
いしくらてつ
朝日新聞東京本社科学医療部記者

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