朝日中高生新聞
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ゲノム編集食品、年末にも食卓に

2019年10月13日付

 肉厚で食べるところが多いマダイ、血圧の上昇を抑える成分が多いトマト――。こんな食ベ物が、早ければ年末にも店頭に並ぶかもしれない。遺伝情報をピンポイントで変える「ゲノム編集」を使った食品だ。1日から届け出が始まった。

従来の品種改良よりも効率よく

遺伝情報をピンポイントで改変

 ゲノムは遺伝情報のことで、DNAという分子でできた生き物の設計図だ。この設計図を自由に書き換える技術をゲノム編集という。ゲノム編集を使うと、作り手や消費者にとってメリットのある食品を作ることができると期待されている。
 例えば、筋肉の増えすぎを抑える遺伝子を働かなくすると、筋肉量が増え、肉厚なマダイが作れるという具合だ。ほかにも、芽に毒がないジャガイモや、収穫が多いイネなどの研究が進んでいる。
 遺伝情報を変える方法はいくつかある。これまでの品種改良は、放射線や薬剤を使って突然変異を起こし、欲しい性質のものを選び出してきた=図1。しかし、どこで遺伝子が変化するかわからないため、新たな品種の開発には時間がかかる。
 一方、ゲノム編集は、DNAのねらった部分を切って遺伝子を壊したり=図2=、新たな遺伝子を加えたりして=図3=、新しい品種にする。効率よく働き方を変えられて、開発期間も短くなるとされる。

安全性審査なし 事業者は厚労省に届け出

表示は義務化せず 消費者に不安も

 ゲノム編集食品が店頭に並ぶまでのルールが決まり、1日から届け出が始まった。
 ゲノム編集食品のほとんどは、もともとある遺伝子を切って壊す方法で作られる=図2。この場合、事業者は厚生労働省(厚労省)に事前に相談したうえで、ゲノム編集した箇所や、有害物質がないことなどを届け出る。厚労省はその情報をホームページで公表する。審査や表示は必要ない。
 自然界で起こる突然変異や、これまでの品種改良と区別がつかず、安全性も変わらないので審査は必要ないとされた。表示についても、消費者庁は義務化しなかった。表示を義務づけた場合、違反した事業者を特定して処分する必要がある。しかし、現時点ではゲノム編集と従来の品種改良が判別できないため、と説明している。
 一方、遺伝子組み換えをした食品=図4=は、以前から安全性を確認する審査と表示が義務づけられている。ゲノム編集食品についても、新たに遺伝子を組み込む場合=図3=は審査と表示を義務づけた。
 ただ、消費者からは、ゲノム編集食品かどうかわかるように表示してほしいという声が上がっている。届け出があった食品やそれを原材料とする加工食品については、積極的に情報提供するよう消費者庁は事業者に求めている。
 新しい技術に不安を感じる消費者は少なくない。国や科学者がもっとていねいに情報を発信し、事業者が適切な表示をすべきだと指摘する専門家もいる。

解説者
むら
朝日新聞東京本社
文化くらし報道部記者

遺伝情報を変える方法とルールを説明した図

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