朝日中高生新聞
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最大30メートル級の津波 どうやって予測?

2020年5月31日付

 北海道から東北の太平洋沖で巨大地震が起きると、北海道から千葉県までの広い範囲が津波に襲われ、その最大の高さは30メートル近くになる――。そんな被害想定を4月、国が公表した。想定のもとになったのは、地層に眠っていた大昔の津波のたいせき物だ。

北海道から東北の太平洋沖 巨大地震を想定

東日本大震災の倍の高さの場所も

 北海道から東北の太平洋沖でマグニチュード(M)9以上の地震が起きたという想定で推計された最大級の津波は、岩手県宮古市では29.7メートル、北海道えりも町では、27.9メートル。震源によっては東日本大震災の倍の高さになる場所もあった。
 東日本の太平洋沖では、海洋プレートと呼ばれる岩板が、年に10センチ ほどのペースで、日本列島が乗っている大陸プレートの下に沈み込んでいる。引きずりこまれる大陸プレートにはひずみがたまり、限界に達するとはね上がって地震が起きる。過去に地震が繰り返され、今後も起きるとされている。
 東日本大震災では、宮城県沖の日本かいこうが動いて、M9.0の大地震になった。ところが、岩手県より北の日本海溝はあまり動かず、北海道沖の千島海溝にもひずみがたまっているとみられている。そのため今回は、東日本大震災で動いた場所よりも北側が大きく動くと想定した。
 この地域には、大津波が300~400年おきに来ていたと考えられていて、最後に来たのは1600年代。近く、起きる可能性がある。国の地震調査委員会は2017年、千島海溝で30年以内にM8.8以上の地震が起きる確率を最大40%と見積もっている。

6千年前までさかのぼり調査

過去の痕跡「津波堆積物」から推計

 津波の高さはどうやって予測したのか。
 北海道や東北地方には、けいちょう三陸地震(1611年)やじょうがん地震(869年)など、津波に襲われた痕跡が残っていた。今回、専門家たちは地層に残っていた堆積物を調べて、過去に実際に起きた最大級の津波がどれくらいだったか推定。その津波を起こすような地震を逆算し、各地の津波の高さを割り出した。
 津波が陸地を襲うと、引いた後に海の底にあった泥や砂が地層として残る。これを「津波堆積物」といい、この堆積物やその上下の地層を調べることで、津波がいつごろ来たのか、陸地のどれくらい奥まで水につかったのかがわかる。今回は6千年前までさかのぼって調べた。
 北海道や宮城県は、広い平野が農地などとして掘り返されずに残っていて、調査がしやすかった。しかし、福島県などの東北南部や関東地方は、開発によって津波堆積物を調べられる場所が少なく、あまり見つかっていない。国は「今後の課題」としている。
 国は想定を出してすぐ、新たに、最大級の津波に備える対策を考える専門家のグループを作った。北海道や東北は、寒い地方特有の、流氷による被害や避難経路の凍結なども考えなければならない。道や県、市町村も、津波から命を守るため避難計画の見直しなどを進めていく。

解説者
ふじなみゆう
朝日新聞科学医療部記者

日本海溝・千島海溝の巨大地震の震源域を示した地図
(C)朝日新聞社

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