朝日中高生新聞
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アカデミー賞映画で戦争を知る

2015年3月15日付

戦闘だけでなく、背景や人物描くものも

 今週は二つのことを結びつけます。一つは映画の米アカデミー賞が2月下旬に決まったこと。もう一つは、今年で第2次世界大戦が終わって70年であること。二つを結んで「アカデミー賞映画で戦争のことを知ろう」。春休み。映画で戦争の歴史を学び、平和を考える機会かもしれません。

米国でいま何が大切か―

 Q そんなにすごい賞なの?
 A 世界でいちばん多く映画を作っていて観客も多いアメリカで、映画作りに関係する約6千人が投票し、最も優れた作品や俳優などを選ぶ。
 規模が大きいし80年以上の歴史があるから、注目度は高く影響も大きい。選ばれた作品は観客を集めやすくなり、俳優は出演料がはねあがったりもする。
 Q 映画の世界一を選ぶのね。
 A それは言いすぎかな。「米国の基準で良いと思う映画を選ぶ賞」だね。それだけにどんな映画が選ばれるかは、米国の人たちがいま、何が大切だと考えているのかを知る一つの手がかりになる。それが面白い。
 例えば今年は「作品賞」で、米国の黒人解放運動の指導者を描いた映画や、2003年のイラク戦争に参加した米兵の心の傷を扱った「アメリカン・スナイパー」などが候補になったが、映画業界の内幕を描いた作品が選ばれた。初めから本命とみられた良い映画らしいが、この選択に米国の少し内向きな気分を読み取っていいかもしれない。
 Q 作品はヒットしている?
 A 興行成績では「アメリカン・スナイパー」が人気だ。日本では2月下旬の公開から連続1位だったし、米国でも戦争映画の中で史上最高を記録した。
 映画の舞台であるイラク戦争は、当時の国連事務総長が「国際法違反」と言い切るほど問題のある武力行使だった。戦争の費用は米国の経済を悪化させ、大勢の米兵が体と心に深い傷を負ったのに、米国でも賛否が分かれている。しかも、この戦争は世界が頭を悩ませているイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」を生んだ直接の原因でもある。映画のしっかりした構成や人物の描かれ方に加え、そんな背景もヒットした理由だろう。ただ残酷なシーンが多く、15歳以上しか見られないよ。

発信する国の考えが反映

 Q 映画でそんな深い背景まで考えられるんだ。
 A  僕は新聞記者のころアフリカや中東でいろんな戦場に行ったけれど、優れた映画はそのときの記憶をまざまざとよみがえらせる。「スナイパー」もそんな映画の一つだ。
 実際、アカデミー賞の歴史をふり返ると、戦争はいつも大きなテーマだった。ドイツがポーランドに侵攻して第2次世界大戦が始まったのは1939年9月。それ以降の75回の作品賞には、さまざまな形で戦争を描いた映画が12作あり、うち8作がこの大戦を背景にしている=表参照。

戦争を描いた1940年以降の作品賞映画の表

 ドイツ、イタリア、日本などがアメリカ、イギリス、フランス、中国などと戦い、45年5月にドイツが、8月に日本が降伏して大戦は終わったが、どれほど大きな影響を人間社会に与えたか、作品賞の回数が示してはいないだろうか。
 Q 戦闘シーンは苦手だな。
 A 全部が戦闘そのものを描いているわけじゃない。②、⑪は戦争を背景にした恋愛ものだし、①は英国の田舎が舞台で戦意の高揚をねらったものだ。
 注意してほしいのは、米英には第2次世界大戦は「正しい戦争」という考えが強いこと。ナチス・ドイツを率いたヒトラーという「悪」がいたからね。ベトナム戦争(60~70年代)やイラク戦争の映画では批判や反省の色合いが強いんだが。
 また、アカデミー賞の候補にならないさまざまな国の見方も大切だ。日本を含めてだね。
 Q 何から見ようかな。
 A 作品賞は逃したが、開戦直後の40年に候補になったチャプリン監督・主役の「独裁者」はどうかな。ドタバタも交じる喜劇で、楽しく見るなかでチャプリンが演じる独裁者「ヒンケル」は誰なのか考えてみる。そこから入ってみませんか。

五十嵐浩司の写真
今週の解説者
元朝日新聞編集委員
大妻女子大教授
五十嵐いがらしこう
 1952年生まれ。朝日新聞大阪社会部、外報部を経てナイロビ支局長、ワシントン特派員、ニューヨーク支局長を歴任。大学や大学院でジャーナリズム論や国際政治を教える。

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