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2015年5月31日付
小中高校の教科書を、タブレット端末やパソコン上で操作できるようにしよう。そんな「デジタル化」の話し合いが文部科学省で始まった。でも、音声や映像を国が検定できるか、授業にふさわしくない情報につながる可能性をどうするかなど、課題もある。
学校の授業ではすでに、情報通信機器の使用が進んでいる。教科書の内容をタブレット端末に入れて、読んだりめくったりできる教材もある。昨年3月時点で全国の公立学校のタブレット端末は約7万3千台で、前年と比べ倍増した。
ただ、これらはすべて「補助教材」の扱いで、実際の教科書は今のところ、すべて紙のままだ。学校教育法などの法律も、教科書は紙の本であることを前提としている。
なので、現行の教科書を使いながら、情報端末を中心にした授業はしにくい。ただ、教科書をデジタル化すれば、例えば自宅にタブレット端末を持ち帰って先生が説明する動画を見て予習したうえで、教室では端末を通じてみんなで議論するなど、紙を使わない授業がやりやすくなる。
そこで文科省は5月、大学教授や小学校の校長、IT業者らを集めた有識者会議を開き、教科書のデジタル化に向けて具体的な検討を始めた。来年末までに、結論を出す見通しだ。
教科書は、先生が手作りするプリントや民間の問題集など「補助教材」とは違い、国が検定して無料で配る。検定とは、書かれている事実が正しいか、書きぶりがおかしくないかなどを、文科省が教科書会社とやりとりしながら1年かけて調べる作業のことだ。
検定で、これまでは文字と画像をチェックすればよかったが、デジタル化すると音声や動画なども対象になる可能性がある。文科省の中には、検定方法の蓄積もなく、時間も限られているとして実際に検定できるのかを心配する声もある。
また、インターネットとつなげるとすれば、犯罪を助長するような情報に児童や生徒が触れる可能性もあり、どう防ぐかも考えなければならない。小中高校生全員に端末を行き渡らせるためのお金をどうするか、画面ばかり見て目が悪くならないかなど、越えなければならないハードルは少なくない。
文科省の会議はこうした懸念の声に応えるような解決策をこれから話し合う。全教科書をデジタル化するよう求める意見はなく、紙の教科書の一部をデジタル化する方向で議論が進む見通しだ。結論が出た後も法律改正や検定方法の検討などがあり、導入時期はまだわからない。最短でも5年以上はかかるとみられ、2020年度にスタートする新学習指導要領には間に合わないとみられる。
5月20~22日に東京都内で開かれたデジタル教材の見本市で、タブレット端末を操作して模擬授業を受ける教育関係者たち=東京都江東区
解説者
高浜行人
朝日新聞社会部
記事の一部は朝日新聞社の提供です。