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2015年8月9日付
岩手県矢巾町で7月、中学2年の男子生徒が電車に飛び込み自殺した。担任と交わしていたノートには、暴力を受けたり自殺をほのめかしたりする記述があった。学校は「SOS」に気づく機会があったのになぜ救えなかったのか。真相解明はこれからだ。
のどかな田園地帯が広がる矢巾町。中学2年の村松亮さん(13)は7月5日夜、JR矢幅駅で電車に飛び込み亡くなった。警察は自殺と断定した。
直後、村松さんが残していたノートの内容が明るみに出た。生徒が毎日担任に提出する「生活記録ノート」だ。そこには、2年になってから「なぐられたり」「首しめられたり」といった暴力を受けていることをうかがわせる記述や、「もう死にたい」「もう生きるのにつかれてきたような気がします。氏(死)んでいいですか」など自殺をほのめかす記述があった。
最後の記述となった6月29日、村松さんは「もう市(死)ぬ場所はきまってるんですけどね」と書き残し、その約1週間後、自ら命を絶った。
この記述に対する担任のコメントは「明日からの研修たのしみましょうね」。村松さんのSOSをまともに受け止めていないような返事に批判が高まった。
村松さんの死から2日後、中学校は生徒や教職員への聞き取り調査を始め、7月26日に報告書をまとめた。報告書では、村松さんが1年のときから断続的にいじめを受けていたと認定。「いじめが自殺の一因と考えられる」とした。
報告書は、いじめと疑われる13件のうち6件をいじめと認定。2013年に施行されたいじめ防止対策推進法の「心理的、物理的な影響を与える行為により心身の苦痛を感じているもの」との定義に基づき、村松さんが苦痛を受けたと判断できる行為をいじめとした。
担任は、ノートの記述から異変を察知し、頻繁に声をかけていた。しかし、村松さんが受けていたからかいをいじめと認知できず、ほかの教員に相談するなど積極的な対応は取らなかったという。
報告書は「重大事態に発展するかもしれないという危機意識に欠け、生徒が発する命にかかわる情報を共有できなかった」などと、組織上の問題があったことを認めた。
町の教育委員会は今後、真相解明に向けて専門家らによる第三者委員会を設置する。さらに、この中学校では生徒が主体となり、いじめの再発防止に向け全校生徒で話し合う生徒総会を2学期に開く。
13歳の生徒が自ら命を絶った要因は、いじめの実態や学校の対応だけでなく、生徒の心の動きや家族との関係など様々な観点から検証する必要がある。学校という共同体に籍を置く生徒や教員一人ひとりが当事者意識をもって考えることが、悲劇のくり返しを断ち切ることにつながるはずだ。
学校がいじめと認めた6件
〈昨年7~10月ごろ〉
体育館でバスケットボール部員5人が村松さんに強いパスをしたり、きつい言葉を発したりした
〈今年5~6月〉
多目的ホールや体育館での朝会で、村松さんをくすぐってからかったり、わざと列に入れなかったりした
〈6月3日〉
多目的ホールで給食準備中、村松さんに教科書を投げつけた
〈6月中旬〉
教室で、村松さんの首のあたりをつかみ机に押しつけた
〈6月24日〉
教室で、消しゴムを投げつけた生徒の腕を村松さんがつねり、けんかになった
〈時期不明〉
掃除中、村松さんにほうきをぶつけたり、わざとぶつかったりした
いじめが自殺の一因と認めた報告書について記者会見で説明する校長(左)=7月26日、岩手県矢巾町
(C)朝日新聞社
解説者
金本有加
朝日新聞盛岡総局
記事の一部は朝日新聞社の提供です。