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2015年11月8日付
日本の子どもの6人に1人が貧困のもとで暮らす。家族の収入が少なくてご飯を食べられなかったり、進学を断念したりしている。その割合は年々増え、大人になっても抜け出せない「貧困の連鎖」も起きている。2013年に「子どもの貧困対策法」ができたが、本格的な動きはこれからだ。
日本の子どもの貧困率は16.3%(2014年発表)で、過去最高を更新した。ひとり親など大人1人の世帯に限ると、54.6%で、先進国で最悪の水準だ。
これらは相対的貧困率と呼ばれ、その社会で大多数が「当たり前」と思っている生活ができず、社会参加ができない人の割合。今の日本の子どもなら、ご飯を食べ、友達と遊び、勉強し、望めば高校や大学に挑戦できる、といったことができない状態を指す。
特に深刻なのは、母子家庭。母親の8割は働いているが、低賃金に抑えられ、十分な収入を得られない人がいる。離婚した父親の8割は、養育費を払っていない。
影響が大きいのは、教育だ。日本は教育費の公的支出が少なく、塾や習い事、部活動、進学などは親の収入に左右されがちだ。一番の問題点は、貧困が親から子へ連鎖してしまうこと。生活保護を受ける母子家庭では、母親の66%が中卒や高校中退で、4割は自分も生活保護で育ったという調査結果がある。
お金がなくて修学旅行に行けず、学校に居場所がなくなり、友達から孤立する。病気の親に「働いて」と頼まれ、高校をあきらめる。そうした事例は今も日本各地で起きている。貧困は複雑な理由が絡み合い、結果的に子どもの可能性や選択肢を奪っていく。
連鎖を断ちきろうと、地道な活動はすでに始まっている。大学生が塾に通えない子や不登校気味の子に勉強を教える無料学習教室。ボランティアの人らが食事をつくって提供する「子ども食堂」。ここ数年で増えてきた。だが、地域レベルの対応だけでは不十分だ。
2013年には子どもの貧困対策法が成立した。重点施策に教育や生活、親の就労などの支援が盛り込まれたが、すでに行われているメニューが並んだ。ひとり親家庭に支給される児童扶養手当の増額を求める声は大きいが、実現していない。貧困率を減らす数値目標も入らなかった。支援団体や専門家は、「これで貧困率を減らせるのか」と疑問視している。
今年8月、政府は、ひとり親の小中学生で親の帰宅時間が遅い子どもの居場所づくりを進めることを公表した。19年度までに年間延べ50万人が利用できる環境整備をするといった数値目標も設定。年末に財源を含めた具体策を正式に決める。市町村の相談体制整備も支援するという。
本格的な子どもの貧困対策は、始まったばかりだ。
【相対的貧困率】
世帯収入から、世帯全員に所得があるとみなして子どもを含む国民一人ひとりの所得を試算し、順に並べたとき、真ん中の人の半分の額に満たない人の割合。厚生労働省の国民生活基礎調査をもとにはじき出される。現在、先進国が指す「貧困」は、相対的貧困のこと。食べる物が不足し、命さえ危うい状態にあることを絶対的貧困と呼ぶ。
支援が必要な子どもに食事を提供する「子ども食堂」の取り組みは各地で広がっている=東京都調布市
どちらも(C)朝日新聞社
解説者
中塚久美子
朝日新聞生活文化部
記事の一部は朝日新聞社の提供です。