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2015年12月27日付
2015年を振り返ると、各地で相次いだ大規模テロと、シリアなど中東の戦乱が、印象に残る。16年はどんな年になるか。4年に1度の大統領選で米国の新指導者が決まり、中東の混乱は続くだろう。予想もしない出来事が起きる可能性も捨てきれない。
オバマ現大統領(54)の後継者を選ぶ米大統領選は、2大政党である民主党と共和党が2月から開く党員集会や予備選で幕を開ける。7月の全国大会で決まる両党の候補者が、11月8日の投票に臨む。
民主党はヒラリー・クリントン前国務長官(68)が本命視されるが、急進左派の候補が急浮上するなど、まだ予断を許さない。共和党は、放言を繰り返す実業家ドナルド・トランプ氏(69)がリードを奪ったが、いずれ失速するとの見方も根強く、混戦模様となっている。
穏健派のオバマ政権は昨年から今年にかけて、キューバやイランと歴史的な和解を達成した。一方で、シリア情勢への対応では後手に回り、混乱を収拾できなかった。新大統領は、最終的に誰が選ばれようと、現大統領より強硬な姿勢を取ると推測される。
ただ、米国の影響力は逆に、次第に弱まっていくだろう。中国やインドが台頭し、ロシアが自信を回復したからだけではない。軍事面でも外交面でも、地域大国の意向も無視できなくなっている。米国が世界の流れを主導する時代はとっくに終わり、世界各地で起きる出来事に米国が振り回される時代となった。
来年の鍵となるのは、今年に引き続いてシリア情勢だ。シリアの安定なくしては、難民危機の解決も、テロの震源となっている過激派組織「イスラム国(IS)」対策も、おぼつかない。事態の打開に向けて、欧米はロシアだけでなく、イランやトルコなど地域大国との調整も求められる。
外交軍事双方で積極的なロシアだが、欧米の制裁や原油価格の低迷で国内経済はがたがただ。内政の混乱が起きると、周辺にとって大きな不安材料となりかねない。テロや難民問題を抱えた欧州も、右翼政党の伸長が懸念を呼んでいる。
世界に対する大国のにらみが利かなくなり、グローバル化で国家の統制力も緩んだ現代は、危機や紛争が予想しにくい時代といえる。シリアやウクライナの紛争も、起きるまではほとんど想定外だった。
来年も、思わぬところで紛争や危機が起きるかもしれない。中国と東南アジア各国が対立する南シナ海での緊張がもし高まると、日本にも大きく影響する。
来年はまた、国連事務総長の潘基文氏(71)の後任を選出する年でもある。調停が難しい時期だけに、どれほど力量のある新事務総長を選ぶことができるかも、大きな焦点だ。
共和党でリードするドナルド・トランプ氏(中央)=10月31日、米バージニア州
民主党で本命視されるヒラリー・クリントン氏(右)と夫のビル・クリントン元大統領=10月24日、米アイオワ州
どれも(C)朝日新聞社
戦乱のシリアなどから脱出した難民が国境検問所で足止めされる事態も起きた=9月20日、スロベニア東部ブレージツェ近郊
解説者
国末憲人
朝日新聞論説委員
記事の一部は朝日新聞社の提供です。