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2016年1月24日付
三菱重工業と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が昨年11月、カナダ企業の通信放送衛星を載せたH2Aロケット29号機を打ち上げた。国産ロケットで初めて、民間企業が事業に使う商業衛星の打ち上げに成功。激しくなる世界的な宇宙開発競争の中で、日本の宇宙開発も新たな段階を迎えた。
H2A29号機は昨年11月24日、種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、衛星を静止軌道に近い軌道に投入した。
静止衛星は、赤道上空の高度3万6千キロの軌道を回る人工衛星。地球の自転と同じ速さで回るため、地表からは空の同じ位置にとどまって見え、気象観測や民間の放送・通信事業に使われている。宇宙ビジネスの大きな柱であり、世界のロケットが受注にしのぎを削っている。
打ち上げの大きなシェアを握っているのが、欧州のアリアン5ロケットだ。打ち上げ施設が静止衛星に有利な赤道近くにあり、軌道投入に衛星側で必要とされる燃料が少なくてすむ。衛星寿命にすると数年の延命効果があるという。
また、民間開発の米国のロケット、ファルコン9は価格の安さを武器に2010年の初打ち上げから受注を伸ばしている。ロシアのプロトンMは、1960年代に初打ち上げされた初代から数多くの実績があるが、2000年以降も改良を行い打ち上げ能力の向上を図っている。
中国やインドも自国開発のロケットで、打ち上げ実績を重ねている。
日本のH2Aは国産主力ロケットの一つ。今回の打ち上げで成功率は96.6%となり、国際的に信頼されるという95%を超えている。しかし、静止衛星打ち上げには能力が見劣りしていた。
静止衛星は赤道上空の高度約3万6千キロを目指す。従来型のH2Aでは、ロケットは高度約300キロまで打ち上げたところで切り離し、目標とする軌道には衛星自身に積んだ燃料を使って移動していた。
アリアンではこの燃料が少なくてすむため、最初からアリアン打ち上げで必要とされる燃料量を前提に設計される人工衛星が増えたという。こうした衛星は、従来型H2Aでは打ち上げられない。
そこで今回、第2段エンジンを3回着火できるよう改造するなどし、ロケットが静止軌道に近い高度約3万4千キロの軌道に衛星を運べるようにした。これで、世界の静止衛星のうち約半数が打ち上げられるようになったという。
成功後、三菱重工の阿部直彦・宇宙事業部長は「非常に大きな一歩。これで自信を持って市場に入っていける」と話した。
しかし、まだ打ち上げ能力や価格に課題が残る。JAXAは、大半の衛星を打ち上げられる能力と費用半減を目指した新型のH3ロケットを、20年度中の初飛行を目指し開発中だ。
(C)朝日新聞社
H2Aロケットの発射をおおぜいが見守った=2015年11月24日、鹿児島県屋久島町
(C)朝日新聞社
解説者
奥村輝
朝日新聞科学医療部
記事の一部は朝日新聞社の提供です。