朝日中高生新聞
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ボブ・ディランさんにノーベル文学賞

2016年11月6日付

 米国を代表するミュージシャン、ボブ・ディランさん(75)が今年のノーベル文学賞を受ける。ノーベル賞が歌手に贈られるのは初めて。しかも文学賞だ。音楽界にも文学界にも大きな話題を呼んでいる。

アメリカを代表するミュージシャン、歌手の受賞は初

「新たな詩的表現」が授与の理由

 スウェーデン・アカデミーが発表した授与理由は「偉大な米国の歌の伝統に新たな詩的表現を作り出した」というもの。
 「おおスザンナ」「草競馬」のスティーブン・フォスター、オペラ「ポーギーとベス」のジョージ・ガーシュインら、米国の音楽家は多くの世界的なヒット作を生んできた。米国が起源のブルースやジャズも、現代のポピュラー音楽に大きな影響を与えている。ディランさんはその歴史に新しい1ページを書き加えた。
 1962年にフォーク歌手としてデビュー。「風に吹かれて」や「時代は変わる」は、公民権運動やベトナム反戦を象徴するプロテストソング(抵抗歌)の代表作として、世界中の若者たちに愛唱された。
 その後、自作曲「ライク・ア・ローリング・ストーン(転がる石のように)」そのままにスタイルを変えてきた。
 65年にはエレキギターを持ってロックに転じ、さらにカントリーやブルースなど様々な音楽の要素を採り入れてきた。最近もスタンダード曲に独自のアレンジを加えるなど、おおしょになっても落ち着くということがない。

「韻」や「暗喩」で独自の歌詞の世界を築く

文学者以外の受賞への評価は割れる

 歌詞の面でも、同じ発音を重ねる「いん」の技法や、なぞめいた「あん」を多用して、独自の世界を築き上げてきた。様々な解釈ができる重層的な言葉のつむぎ方は、従来の大衆音楽の歌詞からは一歩も二歩も踏み出したもの。英国の作家サルマン・ラシュディさんは「ぎんゆう詩人の伝統の見事な伝承者」とたたえた。
 だが、受賞に違和感を覚える向きも少なくないようだ。米紙ニューヨーク・タイムズは文学賞が文学者に贈られなかったことを惜しんだ。「文学賞よりも平和賞がふさわしいのでは」というファンもいる。
 ディランさんは2週間もたって賞を受けるとの返事をした。64年に文学賞を辞退したフランスのサルトルの前例もあって周囲をやきもきさせたが、ノーベル文学賞に改めて世界の注目を集めさせたことは確かだ。
 マスコミ嫌いで知られるディランさんに86年、一度だけインタビューしたことがある。「日本人が僕をどう思っているか知りたい」というのが取材を受けた理由だった。気難しくて神経質という前評判とは裏腹に、体の内側から言葉があふれ出すような人だった。「いい音楽は時代を超えて人の心に触れる。だれかの心に一生残ること、それが一番大事なことなんだ」という言葉が忘れられない。

〈ノーベル文学賞のおもな受賞者〉

1913年 ラビンドラナート・タゴール(インド)
 15 ロマン・ロラン(フランス)
 29 トーマス・マン(ドイツ)
 49 ウィリアム・フォークナー(アメリカ)
 50 バートランド・ラッセル(イギリス)
 53 ウィンストン・チャーチル(イギリス)
 54 アーネスト・ヘミングウェー(アメリカ)
 57 アルベール・カミュ(フランス)
 62 ジョン・スタインベック(アメリカ)
 68 川端康成(日本)
 70 アレクサンドル・ソルジェニーツィン(ソ連〈当時〉)
 82 ガブリエル・ガルシア・マルケス(コロンビア)
 94 大江健三郎(日本)
2000 高行健(フランス)
 06 オルハン・パムク(トルコ)
 10 マリオ・バルガス・リョサ(ペルー)
 11 トーマス・トランストロンメル(スウェーデン)
 12 莫言(中国)
 15 スベトラーナ・アレクシエービッチ(ベラルーシ)
 16 ボブ・ディラン(アメリカ)

 

ボブ・ディラン略歴の表
(C)朝日新聞社

篠崎弘さんの写真
解説者
しのざきひろし
朝日新聞文化くらし報道部記者

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