朝日中高生新聞
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農業改革の方針を政府が決定

2016年12月18日付

 日本の農家は高齢化が進み、所得も少ないといわれている。政府は11月末、農業改革の方針を決めた。自民党などが注目したのは「農協」だった。大胆な見直し案も出たが、農協に近い国会議員の反発もあり、内容は穏やかになった。

農家の平均年齢67歳、生産額は20年前より3割減

若者が就業の魅力を感じにくい現状

 いま、日本の農業がピンチだ。農業を主な仕事にしている人の平均年齢は67歳で、海外の主な国と比べて飛び抜けて高い。また、2014年の農業生産額(8.4兆円)は、20年前より3割ほど減った。働いた時間あたりの農家の所得はほかの仕事より少なく、若い人が新たに農業を始めようと思いにくくなっている。
 こうした農家のための組織が「農協(農業協同組合)」だ。肥料を農家に売ったり、農作物販売の取り次ぎをしたりする。
 一人ひとりで売り買いするより、多くの人数でまとまった方が、肥料は安く買え、農作物を売るのは楽になる。いま全国には約650の農協がある。組合員は1014万人(13年度)に上る。
 農協は、役割別に八つの全国組織がある。そのひとつが「全農(全国農業協同組合連合会)」だ。肥料や段ボールなどの資材の購入や、農作物販売の取り次ぎをしている。
 全農と地域の農協の存在は大きい。資材関連では、農家が使う肥料の7割、農薬の6割、農機の5割を扱う。

農産物の販売などを取り次ぐ全農の在り方が改革の焦点に

農協側が反発、見直し内容は穏やかに

 自民党の議論では、全農に焦点が当たった。政府方針の基礎となる案のまとめ役となったいずみしんろう衆議院議員は「全農は農家がもうかるための役割をはたしていないのでは」と問題視していた。
 ある調査によると、日本の肥料の値段は韓国の2倍、農薬は3倍と高い。メーカーなどから買って農家に売る際、全農が高い手数料を取り、農家に余分なコストをかけさせていると批判された。全農は肥料を安く売ることを決めた。
 また、農産物を市場などにおろす際、多くは農家からの「委託」にしている。「代わりに市場に運んでいる」だけで、売れ残ったら農家の損になる。全農は売り切るための努力をしなくても損はしない。それも問題だという意見もあった。
 自民党と別に改革案を考えていた政府の規制改革推進会議は11月、全農に「1年以内に農作物を委託ではなく買い取りに」といった要求をした。
 だが、厳しすぎると考えた農協側は猛反発。全国から1500人を集めた反対集会には、自民党の国会議員もいた。昔から農業が盛んな地方では、農家の票が選挙で大事だからだ。
 結局、政府の「農業競争力強化プログラム」は、「委託から買い取りへ」といった課題に期限を求めない穏やかな内容になった。ただ、今後は全農の改革を国や自民党がチェックすることにはなった。

改革を訴える小泉進次郎衆議院議員の写真
ある県の農協で使われる段ボール118種類を背に、「高さを1ミリや1センチ変えてコストをかけることに何のメリットが」と改革を訴える小泉進次郎衆議院議員=9月、自民党本部

農業改革の図
どちらも(C)朝日新聞社

野口陽さんの写真
解説者
ぐちよう
朝日新聞経済部記者

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