朝日中高生新聞
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拉致被害者の家族会、結成20年

2017年4月16日付

 北朝鮮による被害者の家族会が結成されて20年になる。子どもやきょうだいを連れ去られた家族たちは「今年中に被害者を助け出して」と日本政府に求めている。しかし、北朝鮮がミサイル発射や核実験を繰り返す中、交渉の糸口はなかなかつかめない。

スパイ養成などに利用か、40年ほど前に相次いだ失踪事件

北朝鮮が日本人を無理やり連れ去る

 40年ほど前、日本の海岸付近などで日本人が突然いなくなる事件が相次いだ。1987年に韓国の大韓航空機が爆破される事件があり、実行犯として逮捕された元北朝鮮工作員のキムヒョン元死刑囚が「はち」という日本人名の偽造パスポートを持ち、「北朝鮮で日本人女性から日本語を習った」と話した。日本人が北朝鮮に拉致され、スパイ活動に利用されているのではないかとの疑いが浮上した。
 拉致とは無理やり連れ去ることだ。日本の警察や韓国の情報機関の捜査によると、北朝鮮は朝鮮半島統一のための工作活動をする工作員(スパイ)の養成などに利用しようと、日本人など他国の人間を拉致したという。日本の海岸で若いカップルを無理やり連れ去ったり、身寄りのない人や海外留学中の学生をだまして北朝鮮に連れて行ったりしたようだ。
 拉致した日本人の戸籍やパスポートを奪ってその人になりすましたほか、北朝鮮のスパイが日本人に見えるように、日本語や日本人らしいしぐさを教える係をさせたといわれている。

横田めぐみさんら日本政府が認めた被害者17人中12人まだ帰らず

「早く帰国させて」待つ親は80~90代

 拉致問題が大きな反響を呼んだのは、中学1年だったよこめぐみさん(拉致当時13)が77年に新潟で拉致された疑いが、97年2月に報道と国会質問で明らかにされたのがきっかけだ。翌月には拉致被害者家族会が結成された。
 北朝鮮は拉致を否定していたが、2002年9月、いずみじゅんいちろう首相が北朝鮮で首脳会談に臨んだ際、キムジョンイル総書記(いずれも当時)が初めて拉致を認め、はすいけかおるさんら5人が拉致から24年ぶりに帰国した。
 北朝鮮はこの5人以外は死亡か未入国だと主張。めぐみさんの「遺骨」も提出した。日本側は骨のDNA型鑑定をして「別人のものだ」と反論し、「北朝鮮側の報告には矛盾点が多い」と指摘したが、北朝鮮は主張を変えていない。
 めぐみさんは今年、53歳になる。日本政府が拉致被害者と認めた17人のうち12人が帰ってきていない。被害者の親は次々と亡くなり、生きている親も80~90代になっている。家族らは「被害者を早く帰国させて」と政府に迫る。
 ただ、北朝鮮のキムジョンウン政権が交渉に応じる気配はみられない。核実験やミサイル発射を繰り返し、各国から非難され、国連で制裁が決まっても軍事挑発をやめようとしないのが実情だ。

■拉致問題をめぐる主なできごと(肩書は当時)

 1977年11月 横田めぐみさん拉致。このころ、北朝鮮による日本人拉致が相次ぐ
  87年11月 大韓航空機爆破事件。この後、逮捕された金賢姫元死刑囚が日本語教育係の存在を明かす。日本の警察はぐちさんの可能性が高いと発表
  97年2月 横田めぐみさん拉致疑惑が、報道と国会質問で浮上
    3月 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会が結成される
 2002年9月 小泉純一郎首相が北朝鮮を訪れ金正日総書記と会談。北朝鮮が拉致を認め、「めぐみさんら8人死亡、5人生存」と伝達
    10月 蓮池薫さんら拉致被害者5人が帰国
  04年5月 小泉首相が再訪朝。拉致被害者の蓮池・むら両夫妻の子ども5人が帰国
    11月 北朝鮮側がめぐみさんのものとする遺骨を提出。翌月、日本政府が「遺骨は別人」と鑑定
  06年4月 めぐみさんの母・さんが訪米しブッシュ米大統領と面会
  11年12月 金総書記が死去。金正恩体制に
  14年3月 めぐみさんの両親とめぐみさんの娘キム・ウンギョンさんらがモンゴルで面会
    5月 スウェーデンでの日朝協議で、北朝鮮が特別調査委員会を設け、日本人失踪者の再調査をすることで合意(ストックホルム合意)
  16年2月 北朝鮮の核実験とミサイル発射に対して日本が独自制裁を決め、北朝鮮が再調査の中止を発表

北朝鮮に拉致された被害者の「家族会」結成から20年を迎え、記者会見で話す横田早紀江さん(中央)たちの写真
北朝鮮に拉致された被害者の「家族会」結成から20年を迎え、記者会見で話す横田早紀江さん(中央)=3月23日、東京・永田町の衆院第1議員会館
(C)朝日新聞社

北野隆一編集委員の写真
■解説者
きたりゅういち
朝日新聞編集委員

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