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2017年7月9日付
無料または安い価格で、栄養のあるごはんを食べられる「子ども食堂」が全国で広がっています。親が働いていて一緒に食事ができない家庭の子が一人で来られたり、貧困家庭を支えたりする目的がありますが、地域のつながりの場にもなっています。(中塚慧)
子ども食堂は、地域のボランティアが安い価格や無料で食事を出す民間の取り組み。2012年ごろから「子ども食堂」という名前が使われました。全国に数百カ所あるとされます。
6月、大阪市西区の「ながほりこども食堂」を訪ねました。毎月第3金曜日の夕方、高校生以下は100円、大人は300円で食事をとれます。
この日のメニューはチキンカツと、ナスのみそ汁。親子連れ約30人で、にぎわいました。子どもたちは「おいしい」とほおばります。
働きながら5歳と1歳の息子2人を育てるシングルマザーの女性(38)は「家では下の子につきっきりになるので、上の子は一人で食事することも。みんなで食べられる場所があるのは、ありがたいですね」。
食事を準備するのは、ボランティアの人たち。その一人、黒田ほのかさん(大阪樟蔭女子大学4年)は、栄養士をめざしています。「子どもが好きで、地域の子どもたちの役に立ちたい」と参加しています。
ながほりこども食堂は、大阪きづがわ医療福祉生活協同組合が1年前に始めました。西区は、子育て世帯が増えている地域です。「住民が増えているのに、人間関係が希薄になっている」と同生協の姉川駿一さん。共働きの世帯が多く、子どもが一人で食事をする家庭もあります。「子どもやお年寄りの『孤食』を防ぐことにもつながれば」と姉川さんは話します。食堂には子どもたちが遊べるスペースを設け、交流の場にもなっています。
子ども食堂は全国に広がっています。全国の食堂をつなげる「こども食堂ネットワーク」には、北海道から沖縄まで240以上が参加。メーリングリストを使って交流し、「お米が足りない」という食堂があれば、余っているところから提供するなどします。
事務局の釜池雄高さんは「地域に子ども食堂があれば、ぜひ足を運んでみて。そこには、みなさんに『おせっかい』をしたい人がたくさんいますよ」。
子ども食堂の目的の一つは、貧困家庭を支えることです。
厚生労働省は先月、3年に1度調べる貧困率(15年)を発表しました。平均的な所得の半分を下回る額の世帯で暮らす18歳未満の割合「子どもの貧困率」は13.9%。「7人に1人」です。過去最悪だった前回12年の調査から2.4ポイント改善しましたが、経済協力開発機構(OECD)が13年にまとめた平均13.2%を上回ります。
「子ども食堂」で、おいしそうにチキンカツを食べる親子=どれも6月16日、大阪市西区
看板の値段の文字は、参加する子どもが書きました
親子で遊べるスペースもあります
厚労省が先月発表した調査では、ひとり親世帯の貧困率(2015年)が50.8%でした。12年から3.8ポイント改善しましたが、主要国で最悪レベルです。
「これはあくまで所得だけで計算した値。所得がある程度あっても、子どもの生活に必要な費用に回っていない例もあります」と首都大学東京子ども・若者貧困研究センター特任研究員の小田川華子さんは指摘します。
子どもの貧困を解決するには、都道府県ごとに実態を把握する必要があります。同センターは、熊本県を除く46都道府県でどんな支援や対策をしているかを調査し、昨年8月に発表しました。
14~16年度に、子どもがいる世帯を対象とした貧困率を調べた都道府県は、東京都や大阪府など10都府県。調査計画を進めていた北海道を除き、35県が「実施していない」とし、都道府県レベルでの対策が進んでいないことがわかりました。
「子どもの貧困問題は、社会の平均を見ているだけでは捉えきれない。実態をきちんと把握することが大切です」と小田川さんは話します。
調査では、高校にソーシャルワーカー(生活面などで困っている人々に対し、問題解決のための手助けをする専門職)を配置する神奈川県の取り組みなど、他の地域で参考になりそうな例も挙げています。
大阪府では、府の青少年課が民間支援団体に依頼して高校内に開いた「カフェ」が、生徒の居場所となり、中退防止に役立っているといいます。
独自の対策は他にも。京都府は今年5月、京都精華大学と協力し、子どもの貧困がテーマの漫画冊子を作成しました。タイトルは「もうひとつの居場所 こどもの未来のために」で、2万部を府内の小中学校や保健所に配りました。
両親が離婚して生活に困る小学4年の女の子の変化に気づいた先生が、母子を助ける話。女の子は、子どもが学校帰りに過ごせる「こどもの居場所」(京都府)に行き、次第に元気になります。「子どもの貧困が身近な問題だと知るきっかけにしてほしい」と府家庭支援課の野木孝洋さん。
今後、求められる対策は? 小田川さんは「根本的に解決するには、最低賃金を上げたり、給付制度の対象を広げたりすることが大切。子ども食堂など民間の取り組みとあわせて、国や自治体の支援が必要です」。
大阪府立西成高校に設けられたカフェ。「となりカフェ」という名前でしたが、今年度から「ステップメイトルーム」に変わりました=2013年撮影
(C)朝日新聞社
京都府と京都精華大学が作った漫画冊子
記事の一部は朝日新聞社の提供です。