- 日曜日発行/20~24ページ
- 月ぎめ967円(税込み)
2017年12月10日付
「寄付の木」を育てたい――。東京学芸大学附属国際中等教育学校(東京都練馬区)のボランティア部は、寄付について伝える活動に力を入れています。寄付につながるLINEスタンプを作ったり、寄付の仕組みを伝えるワークショップを開いたり。中学・高校では全国でもめずらしい部活で、社会の課題解決に役立つ寄付の文化を日本でもっと広めたいといいます。12月は「寄付月間」です。(猪野元健)
「宿題なに?」「きゅんきゅん(ハート)」「明日から本気出す」。こんな言葉と、頭が富士山の形をしたゆるキャラ「ふじぽん」がデザインされたLINEスタンプが1日、発売されました。ボランティア部の約50人がデザインを考えたスタンプで、売り上げの一部を寄付する予定です。
「ふじぽん」は非営利組織(NPO)を応援する社会人のボランティア団体「チームGOEN」のマスコットキャラクターです。ボランティア部が5月、寄付月間に関するイベントでこの団体と交流を深め、LINEスタンプを制作することになりました。3年(中3)の生徒は「かわいいものが好きな世代に響き、中高生にも寄付に関心を持ってもらえると思った」と話します。
ボランティア部のギビングディッセンバー(寄付月間)プロジェクトチームを中心に案を約100個考え、40個に絞り込みました。「日常会話で使うけど、ありそうでなかったデザイン」と東野さん。イラストのデータ化などは「チームGOEN」にお願いしました。
寄付先は福祉サービスや途上国の教育支援などをする3団体です。LINEスタンプは1セット120円で、1団体への寄付の目標額は3万円。
寄付先の一つ、NPO法人「リベルテ」(長野県上田市)は、障がい者の仕事や居場所の支援をする団体です。代表の武捨和貴さんは寄付金で、障がい者が商品開発をするときに役立つ道具の購入を考えています。「寄付を通じて福祉サービスに関わる機会になるのでは。いろいろな人に応援してもらうことで活動が広がる」と喜びます。
ボランティア部は寄付の仕組みを学び、広めようと出張授業もしています。部員が考えた「ギビングツリー」というワークショップでは、寄付の目的や方法を説明した後、寄付の経験やしたいことを葉っぱに見立てた色紙に書いてもらい、紙に貼って高さ1メートルほどの木にします。
文化祭や学童保育などで実施し、これまでに7本のツリーが完成しました。「楽しんで寄付を学べるので、活動をもっと広げたい」と2年(中2)の生徒。
顧問の藤木正史先生によると、社会貢献をする部活動として2009年に生徒の発案でできました。「部活動でなぜボランティア活動をするの」という見方もあって参加者は少なく、休部の危機もありました。
しかし、11年3月の東日本大震災などの災害で「社会のために何かしたい」と思う生徒が増え、現在1~3年(中1~中3)の約1割がボランティア部に所属しているといいます。
藤木先生は「災害や貧困、教育、環境など社会のさまざまな課題に対して自分はどう考え、何ができるのか。社会貢献を考えることは、将来の仕事を考えることにもつながる」と話します。
部員が考えた案(上)と完成したスタンプ
寄付月間とは、12月の1カ月間、寄付に関心を寄せてもらおうという啓発キャンペーンです。全国のNPO法人や大学、企業などの団体が協力して2015年から実施しています。協力団体は15年の122から今年は約500まで増えました。しかし、日本の寄付文化は世界と比べると定着しているとはいえません。
寄付文化を高めようと活動する日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2017」によると、16年に個人が寄付した総額は、米国の推定約30兆6664億円に対し、日本は推定約7756億円。国内総生産(GDP)に対する割合(14年)でみても、米国は1.44%、日本は0.12%と大きな差があります。
日本は東日本大震災を機に寄付をする人が増えましたが、英国の団体が発表している世界寄付指数ランキングでは139カ国中111位でした。同協会の三島理恵さんは「寄付して良かったと思える『寄付の成功体験』が増えていくことが必要」と話します。
募金にも、さまざまな種類があります。昨年4月の熊本地震では、被災した熊本城の修復を支援する「復興城主」の寄付制度があります。京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授は毎年、マラソン完走という目標を掲げて研究への寄付金を募っています。古本の売買会社「バリューブックス」は古本の買い取り相当額を寄付できるサービス「チャリボン」をしています。売り上げの一部が寄付になる自動販売機もあります。
三島さんは「寄付先を選ぶ際、まずは応援したいテーマを考えてほしい。テーマが決まれば、インターネットや図書資料、新聞などで団体を探します。住んでいる地域や学校の近くでNPOなどが見つかれば、その人たちに聞いてみるのもいいでしょう」と話しています。
売り上げの一部が寄付となる自動販売機
(C)朝日新聞社
記事の一部は朝日新聞社の提供です。