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2018年5月20日付
教科書の内容をタブレット端末などにおさめた「デジタル教科書」が、2019年4月から中学、高校で使えるようになりそうです。文字を拡大したり、一部を切り出して保存したりできるなど、学習の充実が期待されます。タブレット端末などICT(情報通信技術)の活用は、みなさんの学習にどんな変化をもたらすでしょう。(近藤理恵、寺村貴彰)
国は2月、紙の教科書の使用を義務づけてきた学校教育法の一部を改正する法案を閣議決定しました。今国会での成立を目指します。成立すれば、来年4月から小中高校などでデジタル教科書が使えるようになります。
デジタル教科書は、文部科学省の検定を通った紙の教科書と同じ内容ですが、文字の拡大や色の変更、音声の読み上げ機能などが加わります。デジタル教科書を使うかどうかは、学校や教育委員会が判断します。
文部科学省初等中等教育局教科書課の春田鳩麿さんは「各教科でデジタル教科書を含めたICTを使うことで、教育の充実を図ることを目的としている」と言います。
基本は紙の教科書で、学習効果が期待できる一部にデジタル版を使うことを想定しています。「例えば、生徒が教科書に書き込んだものをネットを使ってみんなで見たり、一つの画面で、デジタル教科書とデジタル教材(副読本など)を一体化して利用したりすることが考えられます」
ICT教育に力を入れる茨城県つくば市。全国に先駆けて2005年、教科書の内容や教材を映し出す電子黒板を小中学校に導入しました。今では市立の全小中学校に広がり、校内の無線LAN環境も整っています。
桜並木学園つくば市立並木中では11日、7年生(中1)が数学の「正の数・負の数」の授業を受けました。先生が電子黒板に拡大したのは、0を基準とした数直線。紙の教科書と同じものですが、先生が電子黒板の上でキャラクターを左右に動かし、プラスとマイナスの概念を説明すると、多くの生徒が見入っていました。
隣のクラスでは、エジプト文明を学ぶために動画を活用していました。
授業によっては、生徒一人ひとりにタブレット端末を配り、情報を共有できるソフトを使います。生徒の意見を電子黒板上で一覧できるため、他人の考えと比べ、自分の考えをわかりやすく論理的に伝える力が身につくといいます。
数学の宮國泰人先生は「40人ぐらいが同じイメージを共有するにはデジタルが使いやすい。核となる部分はデジタルで集中して聞いてもらい、まとめる時は紙の教科書と使い分けています」。
ICT教育に詳しい東京工業大学名誉教授の赤堀侃司さんは「過去の研究から、紙は読み書きに強く、知識が定着しやすい。一方、デジタルは勉強に入りやすい特性があります。例えば、導入部分にデジタルを利用し、子どもたちもその先が知りたいと思えば紙に移っていくでしょう。それぞれの良さを生かした使い方ができれば」と話します。
タブレットに入った東京書籍のデジタル教科書。画像拡大や音声の読み上げ機能があります
(C)朝日新聞社
デジタル教科書を効果的に使うには、先生のICT(情報通信技術)の指導力も問われます。タブレットなどの機器やネット環境の整備なども課題の一つです。
文部科学省が2月に発表した「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によると、全国の公立学校で教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数は5.9人に1台、無線LANが整備された教室は29.6%(2017年3月現在)=グラフ参照。年々増えていますが、まだ理想の環境とはいえません。
「健康への影響なども含め、デジタル教科書の効果を検証しながら、より良い使い方ができるよう取り組みたい」と文科省の春田鳩麿さんは話します。
教科書出版「東京書籍」ICT事業開発部部長の長谷部直人さんは、タブレットに表示された社会科の教科書の地図を指さして、「紙では見づらかった図やグラフの拡大もできます」とデジタル教科書の特性を話します。
「アンダーラインなどを自由に書いたり消したりも簡単にできるので、より効率的に学習できると考えられます」
法が改正されると、学習障がいや視覚障がいなどのある生徒は、すべての授業でデジタル教科書を使うことができるようになります。学習障がいや視覚障がいの生徒の中には、紙の教科書を使った学習が難しい場合もあります。デジタル教科書を使うと「ラインの色や書体、行間などを生徒一人ひとりが見やすいように変えられます」と長谷部さん。
また、デジタル教材との併用で、より効果が上がると期待されます。例えば、理科の実験映像などが見られるデジタル教材を教科書とリンクさせることで、学習の理解が深まりそうです。
長谷部さんによると、将来、デジタル教科書を使った生徒たちの学習状況を情報化し、つまずきやすい内容などを先生が把握できるようになることも考えられています。
英語のデジタル教科書。文字を拡大したり、背景や文字の色を自由に変えたりできます
=4月、東京都北区の東京書籍
記事の一部は朝日新聞社の提供です。