朝日中高生新聞
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1面の記事から

一緒に考えよう! エスディージー

2018年6月3日付

持続可能な開発目標 東京都立武蔵高校の生徒が呼びかけ

 国連が提唱する「エスディーGsジーズ(持続可能な開発目標)」という言葉を聞いたことはありますか。途上国の貧困や地球の気候変動など17分野の目標で、2030年までの達成を目指します。中高生一人ひとりには大きすぎるテーマかもしれません。でも、関心のある人と協力したら? 課題を知った人が次々に行動したら? SDGsを考え始めた高校生たちが、読者のみなさんにアイデアを求めています。(猪野元健)

地球の未来を変えるために
ペットボトル再利用に知恵

 SDGsは、今のままでは地球はもたないという危機感から、国連が15年に掲げた「未来を変える目標」です=図参照。国や行政だけでなく、企業や教育現場でも少しずつ関心が高まっています。
 東京都立武蔵むさし高校(東京都武蔵むさし市)は、生物の授業などでSDGsの考えを取り入れています。SDGsに関心を持った生徒や教員が、他校の生徒や中学生も巻き込んで計17のプロジェクトを具体的に考えます。
 「アイデアがほしい」。2、3年生4人が口をそろえました。一つ目は、ペットボトルのリサイクル率を高めるプロジェクトです。SDGsではおもに「つくる責任つかう責任」にかかわります。
 メンバーは、まだ食べられる食材が大量廃棄される問題に着目。こうした食材を再利用して弁当を作ろうと考えました。スーパーに話を聞くと、衛生面から実現は難しいとわかりました。その時、ペットボトルがきちんと分別されず、リサイクルに手間や費用がかかる問題を知ったのです。
 「ペットボトルを使いすぎているのでは」と、数を減らす知恵を出し合いました。考えたのが、ファミリーレストランなどにあるドリンクバーのように、出てくる飲料をマイボトルに入れられる自動販売機です。売り上げの一部を環境保全に役立てる機能もつけて、デザインしました。
 この案を清涼飲料水を製造・販売する「コカ・コーラ ボトラーズジャパン」でプレゼンテーションする機会を得ました。社員からは感心する声があがる一方、開発した自販機をどう導入してもらうかなどビジネス面の課題や、飲料を直接出す際の衛生面の課題を指摘されました。また、ペットボトルの再利用率が84%にとどまっていることを聞き、100%に近づける案を再度、出すことにしました。
 課題の一つは「分別されないこと」。メンバーはいま、ごみ箱のデザインや、ラベルを簡単にはがす方法を広めるアイデアを練ります。とりうみひろさん(3年)は「家庭ではラベルやキャップも外して分別するけど、社会に出て大衆の一員となると、その意識が低くなってしまうのも課題」と考えます。

 【SDGs】「持続可能な開発目標」の英語表記「Sustainable Development Goals」の略。2015年に国連で全会一致で採択された。途上国や先進国、地球規模の問題を考える。「貧困の根絶」「産業基盤」「気候変動」など17分野について、「妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減」「食品廃棄を半減させる」など169の具体的な目標を掲げる。30年までに全世界での達成を目指している。

SDGsの一覧表

遠くの話ではないSDGs

無農薬コットンを有効活用

 二つ目のプロジェクトは、農薬や化学肥料を使わず栽培されたオーガニックコットンの活用方法です。SDGsの「すべての人に健康と福祉を」などにかかわります。
 メンバーは、オーガニックコットンの製品を販売する「メイド・イン・アース」の話から、商品を作る過程で切れ端が出ることを知りました。ふぞろいの布を有効活用する方法をメイド・イン・アースと一緒に考えます。メンバーは商品をイベントで販売し、収益をコットンの生産地である途上国に送ることなどを考えています。

「知ったからには…」と行動

 4人のメンバーに共通するのは、昨年夏に東南アジアのボルネオ島へスタディツアーに行ったことです。大規模農園の開発で、オランウータンやボルネオゾウなど野生動物のすみかが奪われていました。農園では、アブラヤシが栽培されていました。日本でも食べられているお菓子などに含まれるパーム油をとるためです。
 「知ったからには何かをしたい」。帰国してからSDGsのことも学び、環境に優しいプロジェクトを考えました。
 なかむらあやさん(3年)は「普通の高校生一人が森を守るって言っても……」と初めは戸惑いがあったといいます。しかし、一歩踏み出すと、見える景色が少しずつ変わってきました。他にも関心のある人がいて、企業も真剣に話を聞いてくれました。
 「SDGsは難しく、遠いところにあるイメージでした。でも、身近なことにつなげて考えられるとわかりました」

職業を考えるきっかけにも

 指導する生物教諭のさんとうりょぶんさんは、2016年からSDGsの教育に力を入れ、全国の高校などで年間30~40の出張授業もしています。「学びの先には、学校の枠を超えた世界規模の課題があります。受験や中間・期末テストなどではなく、目標の天井をもっと高くすることができる」と期待します。
 SDGsへの関心が社会で高まるなか、学校と企業などとの対話のきっかけにもなっています。 「中高生に将来の夢を聞くと、多くは職業名をあげます。でも、本当は誰かの幸せのため、笑顔を生み出すため、などの理念があってこその職業です。SDGsはそのことを気づかせてくれるはずです」

アイデア募集

 東京都立武蔵高校の生徒とSDGsのアイデアを考えてみよう。
 ①ペットボトルの再利用率を高める方法は?
 ②環境にやさしいオーガニックコットン。製品をつくる過程で出たふぞろいの布を活用する方法は?
 〒住所、名前(ふりがな)、電話番号、学校名、学年を書いて、メールでchuko@asagaku.co.jpへ。件名は「SDGsのアイデア係」。投稿内容は武蔵高校と共有し、企業への提案や製品化につなげる可能性があります。

17分野の活動紹介中高生向けの書籍

 SDGsを学べる中高生向けの本『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』=写真=が5月に発売されました。一般社団法人「Think the Earth」が制作。高校教諭の山藤さんらも協力しました。
 目標の17分野にかかわる取り組みを二つずつ紹介。「貧困をなくそう」では、生活の苦しい家庭に寺院が「おそなえ」の食べ物を届ける「おてらおやつクラブ」(奈良)の活動を掲載しています。1800円(税別)。

『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』の書影

収集されなかったごみの写真
びんとペットボトルが分別されなかったため、収集されなかったごみ
(C)朝日新聞社

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