朝日中高生新聞
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男女平等 日本はまだまだ後進国

2018年12月23日付

 国際団体「世界経済フォーラム」が18日、男性と女性の間の格差を測るジェンダーギャップ指数を発表し、日本は男女平等度で149カ国中110位となりました。昨年の114位から順位を上げたものの、主要7カ国(G7)では最下位でした。一方、上位は北欧の諸国が占めています。日本の現状と、北欧における男女平等社会を紹介します。(編集委員・根本理香、近藤理恵)

格差指数は149カ国中110位

特に低い経済・政治分野
国際団体発表

 ジェンダーギャップ指数は2005年から毎年、発表されています。経済、政治、教育、健康の4分野14項目で男女格差を指数化し、国別に順位をつけています。
 日本は、16年は144カ国中111位、17年は144カ国中114位と、毎年低い順位が続いています。
 特に、男女間での所得の格差や、企業の管理職や専門職での雇用の男女比などをもとにした経済分野と、国会議員や大臣職の男女比などから算出する政治分野が低く、全体の順位を押し下げています。

意思決定に関わる女性少ない

 今年の結果について、上智大学のうらまり教授(政治学)は「指数を見ると、日本は経済や政治の分野での格差が昨年よりも少し縮まっているのに、順位はそれぞれ下がっている。つまり、他国の格差改善の速さに、日本は取り残されてしまっている」と指摘します。
 企業の管理職や国会議員など「意思決定に関わる人」に女性が少ない点が問題です。日本の企業は、ほとんどの幹部を日本人男性が占めるところがまだ多くあります。「多様性に欠け、企業のトップが差別に気づくことさえできないでいる」と、三浦教授は意識の低さを懸念します。
 政治では、5月に「候補者男女均等法」が成立し、議員選挙の候補者数を男女均等にするよう政党は努力することが求められるようになったことは、前向きな動きです。三浦教授は「女性議員が選ばれ、女性のニーズをくみ上げて代弁できるように、さまざまなグループネットワークでつながっていくことも大切です」。

「高等教育の入学」順位低下

 日本では今年、大学の医学部受験で女性が不利に扱われる不適切入試が明らかになりました。ジェンダーギャップ指数の教育分野のうち、高等教育の入学という項目では、日本は昨年の101位から103位に順位を落としています。
 三浦教授によると、先進国では格差がないか、むしろ女性のほうが男性よりも大勢大学に入学する国も多い中、「日本は先進国のパターンになっていない」。
 不適切入試については「男性が理想の労働者像で、女性は一定数は受け入れても、あくまで『サブ』という社会全体の空気を、差別しているという意識もないままに反映している」と三浦教授。「結局、差別が教育によって再生産されている」

ジェンダーギャップ指数のイラスト
イラスト・ふじわらのりこ
※「健康」の1位は40カ国あり、日本はそれに次ぐ順位

抗議の声を上げる人たちの写真
女性の受験生を不利に扱っていた東京医科大学の前で、抗議の声を上げる人たち=8月3日、東京都新宿区
(C)朝日新聞社

第4次安倍改造内閣の閣僚らの集合写真
10月に組閣した第4次安倍改造内閣の閣僚ら。女性閣僚は片山さつき地方創生大臣のみとなりました=10月2日、東京都千代田区
(C)朝日新聞社

リシッコさんの写真
国会で女性議員が42%を占めるフィンランドで、議長を務めるリシッコさん=3月20日、東京都千代田区
(C)朝日新聞社

男女平等社会が進む北欧

スウェーデン
男性の育休取得9割超

 男女平等ランキングは1位がアイスランド、2位ノルウェー、3位スウェーデン、4位フィンランドと、北欧諸国が上位に並びます。毎年高い順位につける北欧諸国は、男女平等社会が進んでいるといえます。
 一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事で、明治大学国際日本学部教授のすずけんさんは「北欧には、手本になる制度がたくさんある」と言います。北欧は自然環境が厳しく、資源はあまり豊富ではありません。ノルウェーは525万人、スウェーデン1012万人、フィンランド550万人と、人口も決して多くありません。
 スウェーデンでは1960年代、経済成長が進み、労働人口が不足し始めました。少ない人口で生産性を上げるには、女性が働くことが欠かせなくなり、70年代から女性の労働参加を促す政策が行われました。70年代から80年代にかけて、女性の権利の拡充を求める運動ともあいまって、これまで女性が担ってきた「育児」や「家事」が見直され、育児制度などが充実するようになりました。
 例えば、両親合わせて有給の育児休暇を480日取ることができます。男性の育児休暇も当たり前で、取得率は90%以上。日本でも男性の育児休暇の取得をすすめる動きはありますが、取得率はわずか2.3%です。
 日本では、第2次世界大戦後の高度成長期、男性が外で働き、女性が家事や育児をする「専業主婦モデル」が確立しました。今は共働き世帯が専業主婦世帯を上回りますが、家事や育児、介護など一日における無償労働に従事する時間の割合は、女性の59%に対し男性は11%と、女性の負担が大きくなっています。
 「日本も労働人口が減り、専業主婦モデルが限界にきている。北欧の育児制度などを参考にすることは男女平等社会の実現につながるはずです」

鈴木賢志さんの写真
鈴木賢志さん

男女平等ランキングの画像

「男女平等」が国づくりの基礎

フィンランド
女性国会議員が4割超
育児や家事を夫婦で分担

 男女平等ランキングで常に上位のフィンランドは、1906年に世界で初めて女性に選挙権と被選挙権が与えられた国です。女性国会議員は42%を占め、2000年から12年まで女性のタルヤ・ハロネンさんが大統領を務めるなど、政治分野での女性の活躍も進んでいます。
 駐日フィンランド大使館の報道・文化担当参事官のマルクス・コッコさん(47)は「少ない人口を最大限に活用するために、女性が働くことは必須でした。国づくりの基礎として、男女平等を進めてきました」。
 所得税や消費税などの税金が高い代わり、学費が無償であるなど、社会福祉が充実しています。育児に関する環境も整っており、両親が仕事を持ちやすくなっています。日本で問題になっている「待機児童」もなく、出産後の女性が社会復帰しやすくなっています。育児や家事は夫婦で分担。夕方の保育園の迎えに間に合うよう、午後4時ごろに仕事を終わらせるなど、働き方も柔軟な点が多くあるそうです。

意識を変え社会を変革

 加えて、コッコさんは「政治やビジネスなどの分野でリーダーが『態度』を示すことが大切」と指摘します。フィンランドでは、男性の首相が育児休暇を取ることも珍しくありません。「重要な職務に就いた人が育児休暇を取ることで、『自分もできる』と人々に思わせ、社会が徐々に変わっていくのです」
 男女平等社会をめざすには、育児環境や働き方、そして意識を変えることが必要です。「理想的な社会の実現には、時間がかかる。今の若い世代が男女平等の意識を持つことが、社会を変えることにつながると思います」

マルクス・コッコさんの写真
マルクス・コッコさん

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