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2019年5月12日付
市民が刑事裁判に参加する裁判員制度が始まって、21日で10年。市民の感覚を取り入れ、わかりやすい裁判にすることなどが目的で、これまでに約9万人が裁判員を務めました。良い経験だったと感じる人が多いようです。一方、裁判の長期化や裁判員の候補者の辞退率が高いなど課題もあります。10年の節目に、制度のあり方を考えるイベントも開かれています。(前田奈津子)
裁判員制度は、20歳以上の国民から選ばれた人が、裁判員として、裁判官と一緒に地方裁判所の刑事裁判に参加。殺人などの重大な事件について、有罪・無罪や刑の重さを決めます。2009年5月21日にスタートしました。
一定の重大な犯罪が対象に。
09年5月に東京都足立区で女性が殺害された事件を扱う。同年8月3日、初公判が東京地方裁判所で開かれた。
09年に神奈川県横浜市で2人が殺害された事件。10年11月1日、横浜地方裁判所で初公判。同月16日、死刑判決を下した。11年6月16日、被告が東京高等裁判所への控訴を取り下げ、死刑が確定。
1995年に東京で地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教。教団の元幹部、平田信被告の裁判は裁判員裁判となり、初公判は2014年1月16日に行われた。
兵庫県姫路市で10~11年に起きた殺人・逮捕監禁致死事件。18年4月16日の初公判から11月8日の判決まで、期間が207日となった。
法務省は19年1月、裁判員制度についての検討会を設置した。専門家や犯罪被害者団体の関係者らが集まって、制度の課題を洗い出し、見直しの必要性を話し合う。
15年6月には裁判員法が改正され、著しく時間がかかる「長期裁判」を対象から外せるようになった。改正裁判員法は、施行から3年で政府が取り組み状況などを検討すると規定。これにもとづき、検討会が設置された。
裁判員制度をPRするキャラクター「サイバンインコ」=2010年、福岡県粕屋町
(C)朝日新聞社
東京地方裁判所
(C)朝日新聞社
平田信元幹部の初公判の傍聴券を求め、東京地方裁判所に並ぶ人たち=14年1月16日、東京・霞が関
(C)朝日新聞社
裁判員を経験した人の中には、心の負担を感じる人もいます。シンポジウムでも、裁判員を経験した女性から「事前に模擬裁判などへの参加経験があれば、心の負担が軽減できるのではないか」との意見が出ました。
飯教授が設けた裁判員ラウンジは、これまでに18回、開催されています。誰でも参加でき、親子連れや高校生の姿も見られます。
高校生の時から裁判員ラウンジに足を運んでいる大学生は、裁判員を経験した人から話を聞いて、制度への理解が深まったと言います。
現在は別の大学の法学部で学んでいます。「中高生のうちから、裁判員について学ぶ機会があるといい。私も制度について知っていることを伝えていきたい」と話していました。
Q どうして制度をとり入れたの?
A 以前の裁判は、検察官や弁護士、裁判官という法律の専門家が中心となって行われてきました。裁判の進め方や内容に市民の視点などが反映されることで、裁判に対する国民の理解が深まることなどが期待されています。
Q 裁判員になる人は?
A 20歳以上の国民からくじで選ばれますが、裁判員になれない人もいます。弁護士など法律の専門家は裁判員にはなれません。また、被告人の家族など公平に裁くのが難しいと考えられる人は、その裁判の裁判員にはなれません。
Q どんな犯罪が対象になるの?
A 地方裁判所で行われる刑事裁判で、殺人や放火などの重大な犯罪が対象になります。
Q 裁判員は何人?
A 原則、裁判員は一つの裁判で6人選ばれます。裁判官は3人で、9人で裁判を行います。
Q 裁判員は主に何をするの?
A 裁判に立ち会って、被告人らの話を聞くなどします。また、裁判官と一緒に「評議」と呼ばれる話し合いをします。有罪か無罪かを判断し、有罪なら、言い渡す刑罰を決めます。
有罪の決定と刑罰の判断は、多数決をとります。ただし、裁判員だけの意見では被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かを決める場面では有罪の判断)をすることはできず、裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要です。
裁判員が参加する裁判は、地方裁判所での一審だけ。ここで出した判決が、二審の高等裁判所や三審の最高裁判所でくつがえされることもあります。
Q 裁判員裁判の例は?
A 社会を揺るがしたオウム真理教による一連の事件のうち、逮捕・監禁罪などに問われた教団元幹部、平田信被告の裁判があります。オウム真理教は1995年に東京の地下鉄で猛毒のサリンをまく事件などを起こし、昨年、教団の元代表ら13人の死刑が執行されました。
神奈川県大井町の東名高速で17年6月、ワゴン車を「あおり運転」で妨害して停車させ、後続のトラックによる追突事故で夫婦を死なせたなどとして、危険運転致死傷罪に問われた被告も、裁判員裁判で裁かれました。
弁護士で、裁判員経験者ネットワーク共同代表世話人の牧野茂さんに聞きました。
裁判員制度で、市民の常識が評議に生かされる道が開かれたことはすばらしいと思います。しかし、裁判員には評議についての守秘義務があります。評議は非公開で、その場で出た意見や多数決の人数などを漏らすことを法律で禁じています。このため、どんな議論が行われたかなどの情報が社会に伝わりません。
私は法律を改正し、守秘義務を緩和したほうが良いと考えます。裁判員の務めが終わった後に、裁判員が「評決の時に反対意見があった」くらいのことを伝えることはかまわないと考えます。市民参加の制度なのに、情報がなければ、制度がうまく運用されているかきちんと点検ができません。
最高裁判所のアンケートでは、裁判員に選ばれる前は「やりたくない」と考える人が「やってみたい」と考える人を上回っていますが、裁判員を経験した後は96%もの人が「よい経験と感じた」と答えています。情報が少ないと、裁判員に選ばれた時に不安を感じる人もいるでしょう。裁判員の経験を広めれば、不安を和らげることにつながります。
中高生のみなさんにも、制度の意義や実態を知ってもらいたいと思います。
公開シンポジウム「裁判員制度の10年―市民参加の意義と展望―」が19日(日)、青山学院大学(東京)で開かれます。弁護士や裁判員経験者らが参加。詳しくは裁判員経験者ネットワークのウェブサイト(https://saibanin-keiken.net/)で。
裁判員制度をテーマにしたシンポジウム=4月20日、東京都千代田区の専修大学
牧野茂さん
記事の一部は朝日新聞社の提供です。