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2020年4月26日付
新型コロナウイルスの感染の広がりによる臨時休校をきっかけに、注目を集めているオンライン学習。3月にさまざまな団体がオンライン学習サービスを無償提供したことで、利用し始めた人もいるでしょう。一方、休校前から、授業へのオンラインサービス導入に向けて動いていた学校もあります。インターネットを使った学習は、学び方をどう変えていくのでしょうか。(佐藤美咲)
東京都江戸川区の東京表現高等学院MIICAで2月10日、2年生が授業中に自分のスマートフォンやパソコンの画面に集中していました。13~19歳向けオンラインサービス「Inspire High」の体験授業です。
隔週日曜日に90分間、アーティストや起業家、研究者など第一線で活躍するガイド(ゲスト講師)がライブ配信。ガイドの話を聞いた後、それぞれ課題に取り組みます。参加者同士がオンライン上で意見交換もできます。
授業で活用する場合、投稿した作品は基本的にその学校の生徒しか見られないしくみです。全国のユーザーの作品を見たり、コメントを書いたりすることはできます。
この日は、過去に配信されたもので、クリエーティブディレクターの辻愛沙子さんが登場した回を活用しました。課題は「自分にキャッチコピーをつける」。自分の作品を投稿した後、コメント機能を使って感想を交換しました。
生徒からは「オンライン上でつながって議論できるのがおもしろい」「(クラスメートが)こんなことを考えているのかと新鮮だった」などの声があがりました。ふだんの授業では発表しにくいこともオンライン上では言える、などのメリットもありそうです。
授業への導入を学校に提案したのは、生徒の一人です。個人で利用していて、「ガイドのお話はもちろん、全国の同世代の作品を見て刺激を受けました。学校でもやれたらと思いました」。
生徒が体験する姿を見て、野村静夏先生は、目標設定を考える授業でこのサービスを活用したいと考えています。「毎週ゲストスピーカーを招くか悩んでいた。これなら毎回異なるゲストが登場し、生徒への刺激にもなる」と期待します。
臨時休校中の今、パソコンが支給されている2、3年生は、オンライン学習サービスを積極的に利用しています。Inspire Highのほか、オンライン英語学習サービス「e-Spire」、YouTubeの映像やネット記事などから先生が出した課題にも取り組みます。
ゲスト講師
課題
作品(例)
議論も意見交換も活発に
画面の案内に従い、自分の作品をアップロードします。他の人の作品を見てコメントすることもできます=画面はどれもInspire High提供
臨時休校によって、国や各地域は、オンライン学習の環境づくりに動き出しています。
文部科学省は7日、2023年度までとしていた小中学生1人1台のパソコン支給について、今年度内に完了することをめざすと発表しました。インターネット環境が整っていない家庭や学校にも、通信環境や装置の支援などをするとしています。
これまで教科書などの教材は、インターネットでの自由な配信が認められていませんでしたが、著作権法が改正され、28日から、学校の遠隔授業で使いやすくなります。
こうしたオンライン学習の広まりは、学び方にどう影響を与えるのでしょうか。
「教育が大きく変わる過渡期にある」。こう話すのは、デジタルハリウッド大学大学院教授で、経済産業省の「『未来の教室』とEdTech研究会」で座長代理を務める佐藤昌宏さんです。デジタル技術を使った教育の推進に取り組んできた佐藤さんは「学ぶ人が中心の学びの環境を整える」ことを提唱してきました。
日本は、クラスみんなが同じ内容を、同じペースで受ける「一斉・一律授業」が基本です。学校制度が整えられた明治時代から続いてきたといわれています。このスタイルは、授業についていけない子や、先に進みたいのに進めない子の学習意欲を下げてしまうなどのデメリットもあります。
一方、オンラインでの学習は「一人ひとりに合った最適な学びが実現できる」と佐藤さん。インターネットを使って、自分に合った方法や関心から、学び方を選べるからです。
佐藤さんは「学びの選択肢が広がり、自ら学ぶ手段を選べる、と思って取り組んでほしい」と話します。
オンライン学習は、学校のように先生がそばにいないため、いかに自己管理ができるかが鍵となります。やる気を持続させるため、学習アプリを活用するのも一つの手です。
中高生から大きな支持を集めているのがスマートフォンアプリ「Clear」です。自分が書いたノートの写真をアプリ上で共有したり、他の人が共有したノートを見たりできます。
休校をきっかけに「休校学習」というカテゴリーも設けられました。Clearを提供する会社の代表取締役、新井豪一郎さんは「『つながりたい』『新しい教科・分野にも挑戦してみたい』というニーズにも応えている」と話します。
勉強する時間をグラフなどにして「見える化」できるアプリ「Studyplus」も、やる気の持続に役立ちそうです。他の人が勉強に使っている参考書や、オンライン教材なども見ることができます。
このアプリを利用している朝中高特派員(宮城・中3)は「同じ志望校の人がどんな教材を使い、どれくらい勉強しているのか、わかるのがいい」と話します。
佐藤昌宏さんは、オンライン学習に取り組む際、「オンラインエチケットを身につけること」をすすめます。
①ベッドではなく、机で取り組む②部屋着ではなく、外に出かけるときの服装で臨む③静かな場所でヘッドホンやイヤホンをつける、などです。「当たり前と思うかもしれませんが、大人でもできない人がいます。今のうちにしっかり身につけてください」。他にも、先生や家族と正しくオンライン学習をするためのルールを考えてみましょう。
加えて「オンライン学習は、万能薬ではない」と佐藤さんは強調します。「アプリや動画など、さまざまなものがあります。使ったサービスが自分に合わないからといって、すぐに『オンライン学習は使えない』と判断しないでほしい」。オンラインエチケットが守られていなかったり、学びの環境が整っていなかったりすると、効果が出ないこともあるからです。
「自分の得意や不得意、どんな勉強法が合うかわからない場合は、まずはいろいろなサービスにふれてみて。そこから自分に合うサービスを探してください」
イラスト・とこゆ
佐藤昌宏さん
記事の一部は朝日新聞社の提供です。