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2020年5月10日付
5月15日は国連が定めた「国際家族デー」です。みなさんは「家族とは何?」と聞かれたら、どう答えますか。同じ家に暮らす人たち? 血のつながりのある人たち? 答えが一つではないように、家族の形も多様です。(近藤理恵)
東京都に暮らす小野春さんは、パートナーの西川麻実さん(ともに40代)と、小野さんの息子2人、西川さんの娘の5人家族です。米国に留学していた長男も、新型コロナウイルスの影響で一時帰国し、久しぶりに5人で過ごしています。「きょうだい3人は本当に仲が良くて、今は外にも出られないので、ずっとゲームをしています」と小野さん。
一緒に暮らし始めたのは今から約15年ほど前です。それぞれ男性と結婚して出産しましたが、離婚。シングルマザーとして子育てする中で親しくなり、恋愛関係に。2010年、親戚や親しい知人を集めて結婚式を開きました。初めはシングルマザー同士で暮らしていることにしていましたが、式を機にパートナーであることを周囲にも伝えるようになりました。
「変わったところなんて何にもない普通の家族」と小野さん。しかし、日本では同性同士の結婚(同性婚)は認められていません。法律のもとでは「家族」となれないことで、理不尽な経験が積み重なっていきました。
「私の子どもが入院するため、パートナーが手続きに行ったところ、『血縁者でないと手続きはできない』と言われました。このとき、自分たちの関係を証明できないという壁にぶつかりました。緊急の場面だったらどうなっていたんだろう……と、こわくなりました」と振り返ります。離婚した夫でもいいと言われましたが、「前の夫はもう何年も子どもの様子を知らない。血縁者だけが家族とみなされるのはおかしいと思いました」。
小野さんは4年前、乳がんを患いました。病院では、がんの告知や、入院や手術の手続き、手術室の立ち会いなど、さまざまな場面で「家族」が求められます。幸い、小野さんの通った病院は同性パートナーに理解を示しました。「(関係を示す)続き柄を書くだけでも、いちいち悩みました。ほかの病院には、同性パートナーを家族とみなさないところもあります」
結婚していないと、パートナーには共同親権はなく、法定相続人にもなれません。がんを患ったことで「もしも……」と最悪の事態も考えた小野さん。「家族とみなされず、法的な保障が一切ない。尊厳がないように思えた」と深く傷ついたそうです。
自身にとってはまぎれもない「家族」なのに、周囲からは家族と思ってもらえない――。そんなギャップに苦しみ、かつては外で「いわゆる普通の家族」を目にすることがつらかったと明かします。
「同じ苦しみを若い世代に味わわせたくない」との思いもあり、19年、複数の同性カップルとともに「結婚の自由をすべての人に」と、国を相手に訴訟を起こしました。「結婚を『しない』と『できない』はまったく違う。愛があるから結婚しなくても暮らしていける、という話ではない。すべての人が結婚の選択肢を持てる社会にしていきたいと思います」
小野春さん(左)とパートナーの西川麻実さん。小野さんは3月に『母ふたりで“かぞく”はじめました。』(講談社)を出版しました=4月26日、東京都内
タレントの武内由紀子さん(47)は「特別養子縁組制度」で2人の子どもを迎えました。実の親が育てられない子を「実子」として育てる制度です。武内さんは「血のつながりだけが家族ではない」と話します。
長男の一徹くん(1歳10カ月)を迎えたのは2018年6月。生後4日で、病院で初めて対面したとき「本当に親になったんだ」と責任を強く感じたそうです。
13年に現在のパートナーと結婚し、約4年間、不妊治療をしました。治療をあきらめたとき、「子どもを産みたい」のではなく「子育てがしたい」という思いに気がつき、特別養子縁組を考えました。
制度について調べ、あっせん事業者の研修を受けるうちに「血縁は関係ない」と思うようになりました。「実母や養父母、仲介者や支援者など、たくさんの人たちが動いている。『赤ちゃんが幸せになるための制度』と知ったとき、納得して、涙が止まりませんでした」と振り返ります。
「0歳のときは全然泣かなくて、手がかからない子でした。今はとてもやんちゃで大変。でも子育ての苦労をしたかったので、それもうれしい」と笑います。
4月には、0歳の女の子も迎えた武内さん。今は家族4人で並んで寝ているそうで、「『変わらない日常』が一番大切な時間です」。丁寧に愛情を伝えたいと考えていますが、養子だから、と特別なことはしていません。
「私たち家族4人は、みんな血がつながっていない。でも支え合っています。血のつながりだけが家族ではない、ということをもっとたくさんの人に知ってもらえたら、うれしいですね」
【特別養子縁組】子どもに安定した家庭環境を与えようと1988年に始まった制度。養子縁組が成立すると、実親との親族関係が切れ、戸籍に実子と同じように記載される。
日本では、親と暮らせない子は約4万5千人ともいわれる。そのうち児童養護施設などに入っている子は約3万人と、8割以上が施設での集団養育になっている。2018年度は成立が624件、取り下げ77件。
4月には、制度をより利用しやすくするため、成立要件を緩和するよう民法が改正された。これに伴い、養子となる子の年齢が原則6歳未満から、15歳未満に引き上げられた。
生後4日の一徹くんと初めて対面した武内さん夫妻=18年6月
(C)朝日新聞社
「家族」を表すものの一つに「名字(姓)」があります。日本では、結婚時に夫か妻の姓を選ぶ「夫婦同姓」。どちらかが名字を変えなければなりません。これに対し、「夫婦別姓」を選べる「選択的夫婦別姓制度」を望む声が年々高まっています。
大手ソフトウェア会社「サイボウズ」社長の青野慶久さん(48)ら4人は、結婚時に「夫婦別姓」を選べない戸籍法は、憲法違反だとして裁判を起こしています。
青野さんは2001年に結婚したとき妻の姓に改めましたが、旧姓の「青野」で活動しています。姓を変えると、免許証や銀行口座、パスポート、生命保険、クレジットカード、携帯電話など、たくさんの改姓手続きが必要でした。想像もしない不利益があったことなどから、18年に国を提訴しました。
2月に東京高等裁判所で控訴審判決があり、一審に続いて訴えが退けられました。青野さんたちは上告し、最高裁判所で争う予定です。
女性の社会進出や家族の多様化が進む中で、選択的夫婦別姓制度の必要性は長年、議論されてきました。若い世代を中心に賛成する人は広がり、朝日新聞が1月に行った調査では、賛成は69%にのぼります。
青野さんは「裁判を起こしたのは、シンプルに『困っている人をなくすべきだ』との思いがあるから。選択的夫婦別姓制度は、多様な人がいる社会を目指すための制度だと思います」
「家族とは」と尋ねると「家族という定義は実は、あいまいなんです」と返ってきました。「日本一有名な家族とも言えるアニメ『サザエさん』の『磯野家』。サザエさんの名字は『フグ田』です。名字が違うから、あの家族は家族ではないのでしょうか。家族の形は多様。それぞれの幸せの形があるのです」
夫婦別姓訴訟の高裁判決を受け、会見する青野慶久さん=2月26日、東京・霞が関
(C)朝日新聞社
家族をめぐる法律の現状と課題について、家族法が専門の早稲田大学法学部の棚村政行教授に聞きました。
国が同性婚を認めることは、性的マイノリティーの人に対する差別をなくすことでもあります。社会は誰もが自分らしく生きられることを目指すべきです。
2015年、東京都渋谷区で「同性パートナーシップ条例」が成立しました。同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、お互いを「パートナー」とする証明書を発行することなどを定めています。その後、各地で同様の動きが広がり、現在は30以上の自治体に及びます。
米国では15年に全州で同性婚が可能になり、台湾でも19年にアジア初となる同性婚の法制化が実現しました。どちらも地方自治体から始まり、最終的に国を変えることにつながりました。日本でも、地方での理解が進むことは、法制化への大きな弾みになるでしょう。
姓については、日本では「夫婦同姓」が定められ、どちらか一方が改姓を強いられます。姓を選択できるといっても、96%以上が夫の姓を選んでいます。
「選択的夫婦別姓制度」の導入に反対する人の中には「伝統的な家族観が壊れる」「家族で姓がバラバラだと一体感が生まれない」といった声がありますが、この制度では、別姓にするかどうかは選択肢の一つ。姓を一緒にしたい人は、すればいいのです。
世界でも、選択型や別姓が主流になっています。選択肢を増やすことで、多くの人が生きやすい社会になると思います。
同性婚も選択的夫婦別姓制度の導入も、これまでの限られた家族観にしばられずに議論し、多様性を認めることを望みます。中高生のみなさんも、例えば「自分は異性愛者だから、同性婚は関係ない」とは思わないでください。困っている人の立場で考えることで、社会は変わっていきます。
小野春さんらも参加している「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告団が、東京地方裁判所に入る様子=2019年4月15日
(C)朝日新聞社
棚村政行さん
(C)朝日新聞社
記事の一部は朝日新聞社の提供です。