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2015年10月11日付
今年のノーベル賞は、自然科学系の2分野で日本人2人の受賞が決まりました。医学生理学賞に北里大学特別栄誉教授の大村智さん(80)、物理学賞に東京大学宇宙線研究所長の梶田隆章さん(56)です。大村さんの研究で多くの人が病気から救われました。梶田さんは宇宙のなぞの解明につながる研究。ともに人類に貢献したことが評価されました。これで日本の受賞は24人になります。
おおむら・さとし 1935年、山梨県生まれ。58年、山梨大学学芸学部自然科学科卒業、東京都立墨田工業高校定時制の教諭、63年、東京理科大学大学院修士課程修了。75年、北里大学教授、90年、北里研究所長、2007年に北里大学名誉教授。
かじた・たかあき 1959年、埼玉県生まれ。81年、埼玉大学理学部物理学科卒業、86年、東京大学大学院博士課程修了。99年、東京大学教授、2008年から東京大学宇宙線研究所長。
大村さんは5日夜、北里大学(東京都港区)で開かれた会見の冒頭で、研究対象の微生物への感謝を口にしました。
「私自身がものを作ったり、難しいことをしたりしたわけではなく、全部、微生物の仕事を勉強させてもらいながら本日まできた」
米国のウィリアム・キャンベルさん(85)、中国の屠(ユー)(ユー)さん(84)との同時受賞。大村さんとキャンベルさんの授賞理由は、寄生虫による病気を予防・治療する薬の開発です。失明の恐れがある「河川盲目症」の治療に使われています。
座右の銘は、子どものころ祖母に繰り返し言われた「人のためになることを考えなさい」という言葉。研究者になってからも、分かれ道では「どちらが世の中のため、人のためになるかな」という基準で考えてきたといいます。
集まった学生には「成功のかげにはその何倍もの失敗がある。失敗を繰り返して、やりたいことをやりなさい」と話しました。
梶田さんは「スーパーカミオカンデ」という装置で素粒子ニュートリノを観測し、重さ(質量)があることを証明。宇宙や物質の起源を明らかにするのにつながると期待されています。カナダのアーサー・マクドナルドさん(72)とともに選ばれました。
東京大学(東京都文京区)で6日夜に開かれた会見で度々口にしたのは、周囲の人たちへの感謝の言葉でした。2002年にノーベル物理学賞を受賞した恩師、小柴昌俊さんには真っ先に電話で受賞決定を報告したそうです。
「静かで背も小さく、あまり目立たない子だった」という子ども時代。自然科学への興味も「勉強をするにつれ……という感じ」と振り返ります。「高校でいい授業があったので」、大学で物理学を専攻しました。
子どもたちに向けては「われわれの住む宇宙にはまだわからないことがたくさんある。そのなぞ解きに、ぜひ参加してほしい」とメッセージを送りました。
(岩本尚子、八木みどり)
研究への思いを語る大村智さん=5日、東京都港区の北里大学、別府薫撮影
笑顔で会見する梶田隆章さん=6日、東京都文京区の東京大学、猪野元健撮影
様々な場所の土などを採取して含まれる微生物を培養し、微生物が作る化学物質から有用なものを探します。
1974年、静岡県伊東市でとった土から見つけた新しい菌を、共同研究していたアメリカの製薬会社に送りました。この菌が作る物質で動物の寄生虫を退治できるとわかり、「イベルメクチン」という薬ができました。
畜産業で広く使われるようになり、アフリカなどの熱帯地方に広がる「河川盲目症」という人間の病気にも効くとわかりました。虫にかまれると体内に寄生虫が入りこみ、失明にもつながる病気です。
87年に人間用の薬の無償提供を開始。治療と予防に年間約3億人がのみ、年4万人もの失明を防いでいるといいます。
ニュートリノは、これ以上小さくすることができない「素粒子」の一つ。上空から無数に降り注ぎますが、他の物質とほとんど反応せず、私たちの体も地球も通り抜けていきます。観測は非常に難しいため、わからない部分が多く、それまで物理学の土台となる理論では、質量はないとされていました。
梶田さんらは、岐阜県・神岡鉱山の地下1千メートルにあるスーパーカミオカンデを使って観測。質量がなければ起きない「ニュートリノ振動」という現象を初めてとらえ、98年に発表しました。これが、質量があるという証拠になりました。
(岩本尚子、寺村貴彰)
スーパーカミオカンデの内部=2006年、岐阜県飛騨市
(C)朝日新聞社
自然科学系で日本の受賞が相次いでいます。2000年以降14年までに、米国籍の南部陽一郎さん(故人)と中村修二さんを含む計14人が受賞しました。00年以降の受賞者数を国籍別でみると、米国に次ぎ2位。
イラスト・佐竹政紀
記事の一部は朝日新聞社の提供です。