朝日中高生新聞
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1面の記事から

頑張れ!惑星探査機

2015年12月13日付

 日本が打ち上げた太陽系探査機の活躍を伝えるニュースが続いています。3日に小惑星探査機「はやぶさ2」が地球の重力を使って針路を変える「スイングバイ」に成功。金星探査機「あかつき」は7日、金星を回る軌道入りに再挑戦し、無事に軌道に入りました。(寺村貴彰)

はやぶさ2 スイングバイで「リュウグウ」へ

 はやぶさ2は昨年12月、地球と火星の間にある小惑星「リュウグウ」を目指し、打ち上げられました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、リュウグウの軌道に入っていれば2018年の夏に到着する予定です。
 この1年間、太陽の周りを地球と同じような軌道で回っていました。スイングバイは、燃料を温存して効率よく進む航法です。3日、地球まで約3100キロの距離まで近づくと、地球の重力を利用して向きを変え、さらに地球の公転する速度が加わって、より大きな軌道へと飛び出していきました。
 目的地のリュウグウはほぼ球形で直径900メートルほど。水や有機物を含むとみられます。初代はやぶさがサンプルを持ち帰った小惑星「イトカワ」にはこうした物質は存在しませんでした。
 1年半かけてリュウグウを調べます。金属をぶつけて人工のクレーターを作り、内部の物質を採取する世界初の実験もします。惑星の表面は長期間、太陽の熱や放射線にさらされ、性質が変化しています。内部の物質であれば、太陽系が生まれた46億年前の様子を知る手がかりになると考えられ、太陽系の成り立ちや生命の起源の謎に近づけるのではと期待されています。

あかつき 金星回る軌道に入り初画像

 JAXAは9日、あかつきの金星軌道投入に成功したと発表。日本初の惑星探査が一歩前進しました。プロジェクトマネジャーのなかむらまさ教授は「大変時間がたってしまったが、我々の夢がついに実現した」と喜びました。
 あかつきは2010年5月、金星の大気の動きを調べるために打ち上げられました。同年12月、周回軌道への投入を試みましたが、メインエンジンが故障し、金星を通り過ぎてしまいました。
 その後、太陽の周りを回りながら、金星に近づくときを待っていました。しかし、探査機の寿命は4年半で、バッテリーの劣化や太陽の熱による機器の不具合が心配されました。研究員は数万通りの軌道を計算し、サブエンジンを噴射するという方法で、予定より1年早く投入できる軌道に移しました。
 金星は地球と大きさや重さ、太陽からの距離も似ていることから「双子の星」と呼ばれます。しかし、硫酸の雲で覆われ、温度が400度を超えたり、上空を最大で秒速100メートルの風「スーパーローテーション」が吹いたりと、地球とは環境が異なります。この理由がわかれば、地球の研究がさらに進むと考えられています。
 投入した軌道は5年前より大きなえんになり、回りながら金星を撮ったり、雲の構造を調べたりします。あかつきは早速、金星の画像を送ってきました。会見で、中村教授は「あんな画像が撮れたのは世界で初めて。これは期待が持てる」と笑顔を見せました。
 来年3月までは機器などを確認し、4月から2年間、本格的な観測に入る予定です。

はやぶさ2とあかつきの探査軌道を解説した図
デザイン・佐竹政紀

欧米の探査機も大仕事の一年

ロゼッタ 彗星で着陸機が調査を再開

 「今年は国際的に太陽系内惑星の探査が進んだ年だった」と、国立天文台のあがたひでひこ准教授はふり返ります。
 ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が2004年に打ち上げた彗星探査機「ロゼッタ」もその一つ。昨年ロゼッタから切り離されて彗星に着陸した着陸機「フィラエ」が6月、休眠状態から脱し、調査活動を再開したのです。
 彗星への着陸は史上初。フィラエは太陽電池パネルで電力を作って動きますが、太陽光が十分に当たらない場所に降りたため、内蔵した電池が切れて動けずにいました。今年に入って彗星と太陽との位置が変わり、フィラエに光が届くようになりました。
 彗星を調べれば、太陽系誕生の謎に迫ることができると考えられています。フィラエからのデータで、彗星の大気に炭素と窒素が含まれていること、表面に16種類の有機物があることなどがわかりました。ロゼッタは太陽に最接近した8月、ガスを激しく噴き出す彗星の姿を撮影しています。

ニューホライズンズ 冥王星に最接近し、撮影

 7月には、米航空宇宙局(NASA)の無人探査機「ニューホライズンズ」が冥王星に最接近しました。秒速13.9キロのスピードで通り過ぎ、「表面の白くハート形に見える地形や、3千メートルを超える山々を撮影し、世界中を驚かせた」と縣准教授。
 冥王星は、太陽系の9番目の惑星とされていました。しかし、1990年代以降、冥王星付近で似たような星が次々と見つかり、2006年に「準惑星」と分類されました。太陽系ができたとき、惑星になりきれない状態で成長が止まったと考えられ、冥王星を調べることで惑星誕生の秘密に迫ろうと期待がかかります。
 これまでの研究は欧米がリードしてきましたが、11月にJAXAと三菱重工業が、カナダ企業の通信衛星を乗せたH2Aロケットを打ち上げました。国産ロケットによる商業衛星の打ち上げは初めてで、日本の宇宙開発がトップレベルにあることを示しました。
 宇宙の謎への挑戦は、多くの事実を積み上げては議論し、また新たな謎を考える、という繰り返しです。縣准教授は「日本は力不足の部分もありますが、国際協力のもと、世界をリードするような研究を進めてほしい」と話します。

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