朝日中高生新聞
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18歳 世界一周 「国際支援とは」学ぶ旅

2016年3月20日付

吉野裕斗さん(愛知・高3)

 国際支援の現場を自分の目で見て確かめ、学ぼうと世界一周の旅に出た高校生がいます。よしゆうさん(愛知・名古屋大学教育学部附属高校3年)です。29カ国を巡って2月に帰国し、名古屋市内で12日、報告会を開きました。会場には高校生ら約200人が集まり、熱心に耳を傾けました。(今井尚)

路上の子の「ギブ・ミー・マネー」に後悔/「貧しい親に仕事」の活動に感心

 「将来は国際支援の仕事に就きたい」という夢を持つ吉野さん。具体的に何をしたらよいかわからず悩んでいた高校2年の秋、世界一周をした人の話を聞きました。「困っている人にも会える、活動している人にも会える、役立っているかどうかも確かめられる」と、自分も世界一周の旅に出ようと決意しました。
 資金を自分で用意するという条件つきで親を説得。その時点での資金はわずか10万円でした。それでも高校に休学届を出し、SNSなどで計画を公言。「退路を断って、自分を追いこみました」
 企業の経営者らの集まりに出ては自らの夢を語って賛同者を募り、約135万円を集めました。
 旅に出たのは昨年5月。東南アジア、アフリカ、南米、米国を8カ月半かけて回りました。
 最初に訪れたフィリピンでは、ビニール袋に口をつけるストリートチルドレンに出会いました。シンナーを吸っていました。ご飯は1食30円、シンナーは1袋10円。空腹を紛らわすために、シンナーを与える親がいると知りました。
 孤児院も訪れました。孤児院ができれば、ストリートチルドレンは減らせると思ったからです。でも、路上生活で育った子は施設になじめず、脱走することが多いという事実に直面しました。
 街角で出会った子どもたちのために何かをしようと、路上パフォーマンスをして得たお金で裸足はだしの子どもたちにサンダルをプレゼント。「その時は自分も満足し、子どもたちも笑顔になりました」
 ところが翌週、同じ場所を訪ねると、大勢の子が「ギブ・ミー・マネー」と集まってきました。サンダルをあげた子からも、もっと服がほしい、ご飯がほしい、とせがまれました。「とんでもないことをした。僕は彼らの幸せを崩した」と、無償の支援の限界と疑問を感じたといいます。
 カンボジアでは、貧しい家庭の親が職業訓練を受け仕事を得ることで、子どもが売りに出されるリスクを減らす「かものはしプロジェクト」を見学。一時的ではなく、持続可能な支援活動を見て、「ビジネスとして解決できるものがずいぶんあるのでは」と思うようになりました。

吉野さんの世界一周ルートの地図
(C)朝日新聞社

覆された「上から目線」 世界のイメージ、変わった

 旅を通して、世界に対するイメージが変わったという吉野さん。
 「貧しい国」と、どこか上から目線で見ていたアフリカ。ところがボツワナでは、多くの子どもが高校まで進学。学費のほとんどを政府が負担するなど教育制度が充実していると知りました。ルワンダでは、町を汚すビニール袋の持ち込みが禁じられているなど、環境意識の高さを実感したといいます。
 「実は知らない国がたくさんあった。日本は世界をなめているんじゃないか。日本の高校生、国内でがんばっているだけでいいのか、と思いました」
 吉野さんが国際協力に興味を持ったのは、高校生になってから。短期留学する同級生を見て、海外にあこがれました。3年間の通学定期代17万円を親から前借りし、今後は自転車で通うことにして、1年生の夏休み、タイの山岳民族の村を訪ねました。
 水道も電気もない村で鉛筆をプレゼントすると、子どもたちが笑顔になりました。「人を幸せにすることが自分を幸せにする」。その年の11月、名古屋高校生国際ボランティア団体「どえりゃあwings」を設立。タイの山岳民族の子どもたちに修学旅行をさせたり、フィリピン、バングラデシュなどにお金や物を届けたりする活動を始めました。
 6人だったメンバーは現在約20人に。世界一周の旅も、この団体が支援しました。

「戦う仲間を増やしたい」

 この春から1年遅れの高校3年生。高校生活を送りながら講演会、出張授業、執筆活動をするつもりです。「小中高校生に世界への関心を高めてもらい、世界で戦う仲間を増やしたい」
 卒業後は大学に進まず「アフリカに行ってビジネスをするのが、いまもっとも有力な夢」といいます。同世代の中高生には「夢の形は人それぞれだけど、やりたいことは発信し続ければきっとかなうはず。みんなもっと激アツでいこうぜ」。
 講演を聞いたおうやまのぼるさん(三重・すず鹿工業高等専門学校3年)は「行動して、結果を出しているところがすごい。自分は18歳選挙が始まるなか、若者と政治を結びつける活動をしていますが、学校では様々な困難に直面しています。分野は違いますが、勇気づけられました」と話していました。

【今後の講演予定】
 21日 大阪・梅田
 27日 東京・五反田
 31日 愛知・豊田
4月9日 愛知・日進

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